0人が本棚に入れています
本棚に追加
白猫が聞いてきた。平日ということもあり他に客の姿がないからか白猫はまるであかね専属の執事のように世話を焼いてくれる。しかもデミヒューマンとはいえ白猫は芸能界でもなかなか見ないほどの美形である人の容姿をそれほど気にかけないあかねでも、やはり美形に傅かれるというのは気分が良いものだ。
「なら、せっかくだし紅茶を頂こうかな?」
「かしこまりました」
程なくしてダージリンティーが運ばれてきた。インスタントでない、きちんとした抽出法で供されたことがわかる芳醇な茶葉の香りを感じながらあかねは。
(ああ、こんなに平和でいいのかな?)
数日前の激務と現在の落差につい罪悪感を覚えてしまう。
紅茶を半分ほど飲み終えた頃、あかねはフッと何げなく窓の外を見る。よく晴れていたが、山岳地帯に分類されるこの辺りは10月でもかなり肌寒い。あかねの住む地域ならば11月に相当するような気候である。
(だから、コートをしっかり用意してきたんだよねぇ)
お昼を食べて、ずいぶんまったりしてしまったが、まだまだ散歩に出る時間くらいはある。せっかく持ってきた防寒着を遊ばせておくのも勿体ない。
「よし!」
あかねは決断して、パタンと本を閉じる。
「どうかされましたか?」
白猫が不思議そうに首を傾げながら尋ねてくる。
「いや、お散歩に出てみようかと思って」
最初のコメントを投稿しよう!