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「うちは全てワンコイン。なんでもいいわよお」
「じゃあ、こちらの男性と同じものを」
「はーい」
黄金色に輝いて、浮いた氷が美しいウイスキーの水割りが届く。私はそれを一口含んだ。
(うわっ、濃い)
夜風で酔いを醒ましたカラダに、濃いお酒はすぐ染み渡る。お酒に詳しくない私は、ウイスキーの水割りがアルコール度数高いものだと知らなかった。
(こういうことは、全部、夫に任せてたしなあ)
「水、もらいましょうか」
グラスすら静かに置くことのできない私に、隣に座る男性が心配そうに顔をのぞかせた。自分でも、顔はほんのり赤く、目は座っていると思う。
「あっ、いいえ、大丈夫です。今日は酔いたい気分ですし、ちょうどいいんです」
「あはは。そうでうか。実は僕もです。結婚式の帰りですか」
「ええ。親友の」
私はパールと白い花のピアスに触れた。ドレスは昔のドレスが着れなくなって仕方なく購入したけれど、このピアスは、昔、親友がプレゼントとしてくれたお揃いのもの。
「ちょっとちょっと。私を置いて仲良くしないでよっ。じゃあ、私も一杯いただきまーす」
バーテンダーも一緒に飲み始めるお店って本当にあるんだと驚きつつ、私はこの気楽さが気に入った。家ではやることが多くて気が抜けないから、大切にしたい。
カンパーイ。
こういう飲み会なんて、大学時代に親友と宅飲みした以来だ。
「じゃあ、自己紹介しーましょっ」
陽気なバーテンダーが進行役。
「私はシンよ。このお上品な小粒レディはココ。あんたは?」
「僕は山……」
「バカっ。ここは商談の場じゃないんだから。適当でいいの、適当でっ」
「そういうものですか。じゃあ、マサヒロでお願いします」
「はーい」
マサヒロさんは平静を装ってウイスキーを口に運んだけれど、真っ赤な耳までは隠しきれず、私とシンさんは目を細めた。
(きっと真面目な人。お仕事以外でこんな場所に来たことがないんだろう。年上に言うことじゃないけれど、母性をくすぐるなあ)
マサヒロさんの飲み屋に遊び慣れてない感じが、私の緊張をほぐしてくれた。
「私はツユリです」
「よろしくねえ。まあ、夜だし。早速エロトーク言っちゃいましょ?」
「「ええっ」」
私とマサヒロさんの声が重なった。
(急すぎる。いきなりそんなことを赤裸々に話せるほど、私に勇気なない。マサヒロさんは)
(同感です)
私たちは目で会話した後、シンさんに視線を戻す。
「やだっ、もう、そんなにかしこまらないでよー。ノリよ、ノリ。まっ、ここでの会話は他言無用だし、あなたたちはお互いに本名も知らないのよ。思いっきりぶちまけちゃって、スッキリすれば」
(確かに)
急速に口の中が乾いていくのを感じた。実は、私には性について長年悩んでいることがあったけれど、今まで誰にも相談できなかった。
「ぶちまけちゃっていいですか」
私の氷だけ残ったグラスに、シンさんはウイスキーを注ぐ。
「度胸のあるレディに、私からサービスよん」
「ありがとうございます」
ウインクしたシンさんに私は軽く会釈した。普段なら言えるはずもない内容だ。こんなに酔いが回った状態だと、明日になれば言ったことを忘れているかも。私は気が大きくなって、早口で話した。
「私、経験人数一人なんです」
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