11人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「途中で気づいてしまうんだ。僕に恋の悩みを相談する人たちは、結局、僕を見下したモテ自慢なんだって。始めは、こんな僕でも頼りにしてくれるんだって思って真剣に聞く。でもね、僕が正論を言えば、『童貞のくせに何言っちゃってるの』って顔に出すから、腹が立つよ。そのことを直接言われたこともある。だったら、童貞を捨てて楽になりたいって思う気持ちもあって」
マサヒロさんは私と同類だ。
今の状況を打開したい気持ちは同じ。私は、夫以外の人とセックスをすることで先に進みたい。後腐れなく、家庭を壊すことなく、私だけの思い出として心に留めておけるのなら、ヤってしまったほうが楽だと思う。
不貞であることは間違いないけれど、不倫じゃないというか、浮気じゃないというか。
「私……じゃダメでしょうか」
「えっ……」
こんなに勇気のいる発言をしたことがなかった。夫以外に告白されたこともなければ、誰にも告白をしたことがない私には、セックスの提案はハードルが高いこと。
夫は、私と初めてセックスをした時、どんな気持ちで挑んだのだろう。
私に、『経験人数は多いから大丈夫』って言ったあの時も、子どもを産んでぜい肉がついたカラダを定期的に抱いてくれる時も、夫は過去の女性よりも興奮しているのだろうか。
私は、マサヒロさんの下半身に視線を移した。紺のスラックスの中が硬直しているのか判断が難しい。マサヒロさんとしてもいいと思っているけれど、それは快楽のためではなく、友人としてのセックスで。私の悩みとマサヒロさんの悩みを解消するためのセックスで。
私は俯いたまま、自分に対して嘲笑した。
「私じゃ嫌ですよね。困惑させてごめんなさい」
「いいえ、僕こそ、すみません。ええっと、どう答えればいいのかな。年を取るって嫌なもんですね。どうか、顔を上げてくれませんか」
顔を上げると、マサヒロさんは、ふう、と長く息を吐いて、右手で髪をかき上げて私を見つめていた。
誰かの恋愛相談でも思い出して、言葉を選んでいるのだろう。
私の右手を握ったまま解放しないってことは、セックスの同意として受け止めていいのだろうか。マサヒロさんは覚悟を決めて話し始めた。
「僕は必ず秘密を守りますし、連絡先も教え合うことはしません」
「えっ、あっ、はい」
「この出来事が夢ではないならば、僕はあなたとセックスしたい」
真剣な眼差しに私は動揺する。
「僕は、この年で初めてですし風俗も行ったことがありません。ユツリさんを満足させることも難しいかもしれません。それでもよければお願いします」
包み隠さず気持ちを伝えてくれたマサヒロさんに、私は飲み込まれてしまった。
「はい」
マサヒロさんは、私の指の間に自分の指を上から入れて強く握ると、手のひらにゆっくりと滑らせ恋人つなぎをした。
私はされるがままだった。
最初のコメントを投稿しよう!