現世界・人外編【恋と故意】

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「コンニチハー!」 「ぅわぁ!!?」 「……」 「あいた! もー叩かないでー!? 驚かしちゃってごめんねー! ずっとお店の前にいるから入りにくいのかなーっと思って声かけちゃった! いつまでもそんなところに立ってないで入っておいでよー! お茶いれるよー! 紅茶? 焙じ茶? 緑茶? 煎茶? 水? どれがいい?」 「……」 「あたた! もう! 叩かないでって!」  突如、お店の扉を乱雑に開けて飛び出してきた猿耳の女の子たち。  一人は耳当てをして、一人は猿轡で口元を覆っている。  耳当ての子はマシンガンだけど、猿轡の子は無口だ。  二人に手を引かれ、否応なしにお店に招かれる。  中は……そう、外と同じように猿の置物がたくさんある。  大小問わず。大きいものは見上げるほどに。    逆立ちしてるもの。  寝そべっているもの。  大股開いて覗き込んでいるもの。  見返り美人風なものもある。  全部猿。  何ここ……。  やっぱり、私間違えちゃった? 「どうぞお座りください! お水入れてきますね!」 「あ、お構いなく……」  やたら低くて沈み込むソファーに座らされた。  ふかふかすぎて落ち着かない。  走って奥に行ってしまった、元気な耳当ての少女。  猿轡の子はいつの間にかいないし、猿ばっかで怖いし……居心地悪い。  心なしか、周りの置物に監視されているような気分になる……。 「……うん、帰ろう」  ここは私の探していたお店じゃなかったんだ。  そうに違いない。  変に絡まれる前に帰ろう。  座らされたソファーから立ち上がる。  立つのも一苦労なソファーが、呼び止めておるような錯覚を覚える。  けれどここの雰囲気の怪しさも相まって、今すぐに逃げたいと思う気持ちが強くなる一方だ。  踵を返す。  いくつもの視線の中、扉を開こうと手を伸ばす。  キィ……と、やたら耳障りな音が体を強張らせた。 「お悩み相談所、『幸せ本舗・ハッピーエンド』へようこそお越しくださいました」  扉に手が届く前に、声を掛けられた。  逃げられなかった。  このお店を探してしまったこと、たどり着いてしまったことをひどく後悔した。 「さあ、どうぞお座りください。まずはゆっくりお話を聞きましょう」 「紅茶入れたよー!」  歓迎の空気が漂ってくる。  この状況で扉を開けて逃げ帰れるほど、私に度胸はない。  大人しく、おずおずと振り返って一度は見た光景を再度視界に入れる。  最初にいた少女が二人と、最初はいなかった男性が一人。 「改めまして、ようこそお越しくださいました。あなたのお悩みを解決すべく、このタバコ屋店長兼、お悩み相談員のライターが尽力致しましょう」  存在を忘れかけるタバコ屋さんらしい名前。  ハットを被り、両目を包帯で隠したスーツの男性が、紅茶を片手に車椅子に乗って足を組んでいた。
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