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異様な光景に目を背けたくなる。
けれど、中に目を向けて外から目を背けてしまったからには、もう覚悟を決めるしかない。
なんかのほほんと紅茶を啜ってる姿に不安しかないけれど。
いや、逆に一周回って安心感もあるけれど。
座り心地の悪いソファーに座り直す。
ガラスコップに注がれた紅茶から良い香りがする。
……喉が渇いた気がしてきた。
「ここまで迷いませんでしたか?」
びくりと体が震えた。
直角の位置に座る男性を見る。
目隠しされているから、私のことは見えていないかもしれない。
このタイミングで声を掛けてきたのは、意地悪でもなんでもなく、たまたまだろう。
引っ込め掛けた手を、もう一度伸ばす。
コップの重さとひんやり感。
手汗で滑る。
「なんとか……。すごいところにあるんですね」
「ええ。賑やかなところは依頼主様のお話が聞き取りにくいので。ご足労ありがとうございます」
「いえ……」
「さて。ご相談内容は先にお手紙をいただいた通りの内容でよろしかったでしょうか? 意中の相手に振り向いてもらえないという」
びっくり。
突然本題に入られて、身体が大きく震えた。
コップから紅茶が少し零れる。
手にかかったところがべたついて気持ち悪い。
「え、ええ……」
手に気が散って、変な答え方しかできない。
そんなこと見えていない……ライターさんは、「なるほどなるほど」と紅茶を一飲みした。
「お相手さんについてお伺いしても?」
「はい……。子済くんという同級生です。優しくて、小柄で、可愛くて……。一目惚れしました」
子済くんを思い出しながら話すと、心が穏やかになるどころか動悸がしてくる。
すき。すき。すき。
『すき』と『だいすき』が溢れてくる。
あぁ……本当にすき。
なんで避けられてるんだろう。
「去年初めて同じクラスになった時から好きなんですけど、私臆病だから、話しかけたりできなくて。ちらちら見たり、影から見守るような感じてずっとうじうじしてたんです。嬉しいことに今年も同じクラスになって、これは運命だと思って。勇気を出して告白したんです」
「おや、それはそれは。頑張られましたね」
べたついた手を握る。
汗でさらに滲んで、べたべたする。
「すっごく緊張しました。けど……フラれちゃいました」
「おやおや……。なぜなんでしょう」
「……「難しい」、って、言われました」
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