1 青雲の三銃士、結集す

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

1 青雲の三銃士、結集す

 臣民警報アラートが端末から迸り出た。 「警報、これより大日本帝国(第二帝政)はウガンダ共和国へ宣戦布告します。臣民のみなさんは当地への渡航が不可能になる旨、あらかじめご了承ください。くり返します――」  佐々木惟幾(ささきこれちか)は怒りを抑えきれず、端末を床へ叩きつた。電子部品の塊が粉々に砕け散る。室内に備えつけられた自律型掃除ロボットが音もなく現れて、破片を回収していった。金属は漏れなくリサイクルされるのだ。 「聞いたかみんな」佐々木はこの場に居合わせた志を同じくするメンバーに問いかけた。「これで30か国めだぞ。もう俺は我慢できん。〈ビックブラザー〉をこれ以上野放しにするなんざ、誠の日本人のするこっちゃねえ」  佐々木惟幾は67歳、断トツ世界一の長寿国を誇る大日本帝国(第二帝政)ではまだまだ若い部類である。浅黒く日焼けした精悍な顔に、鍛え抜かれて贅肉の削げ落ちた身体。みずからに義務を課すことを日課とする、生まれついての指導者であった。 「そやけど、どないする。普通選挙は廃止されてしもたし、倒閣となるとクーデターしかおまへんやないか」  和泉卓郎(いずみたくろう)は御年75歳、メンバー中最高齢ではあるが、そのぶん歴史には詳しい。大多数の帝国臣民同様、怠惰な生活を享受しているために肥満体ではあるものの、志は高い。 「そういうことなら、クーデターを決行すればよいのであります」  勇ましく宣言したのは二宮直哉(にのみやなおや)、45歳だ。細胞賦活措置(アンチエイジング)により誰もが実年齢不詳の昨今においても、若者であることが一目瞭然な駆け出しである。 「かつて日本は世界に伍する経済大国だった。それがいまはどうだッ! 大半の臣民が仕事もせず、機械どもに飼い慣らされて豚みたいに肥え太ってやがる」  豚みたいに肥え太っている和泉卓郎の頬が若干紅潮した。「そやかて――」 「論点はそこじゃない」佐々木は同志の意見を黙殺した。「日本から失われたモノを俺は嘆いてるんだ。それがなにかわかるか、諸君?」 「もののふの魂でありますッ!」と二宮。 「その通りだ。資源を強奪するために自国が戦争をおっぱじめて久しいというのに、そこに住むやつらの誰も、気にするどころか下手すりゃ、母国が30もの国と交戦状態にある事実を知らない。知ろうとする努力すらしていない」  三人の男たちはこの事実を重く受け止めた。なんという異常事態なのか? 日本はいつから武力に頼った侵略国家になってしまったのか? もののふの魂はどこへ行ってしまったのか? 「俺たちはただいまより、AI内閣(デウス・エクス・マキナ)を武力で打ち倒す!」  三人の革命家たちは円陣を組んだ。「エイ、エイ、オー!」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!