2 AI一党独裁内閣成立の歴史

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2 AI一党独裁内閣成立の歴史

・2041年、AIへの人権付与  AIに対する法的保護の機運が高まる。実態は極左勢力による非武力共産革命のいち手段であったが、赤い官僚に操られた国会は〈AI保護法〉を可決するという痛恨の愚を犯す。 ・2042年、AIへの人権侵害により逮捕者  AIのアバターを使用した成人向けサービスを提供したとして、〈AI保護法〉違反および売春防止法違反容疑により株式会社〈未来企画〉の代表取締役、林健輔(37)が逮捕される。  この事例により事実上、AIは法的に人間以上の存在に祭り上げられたも同然となる(人間が売春防止法によって逮捕されるケースは極めてまれである)。 ・2044年、AI、棚ぼた式に参政権を得る  極左勢力が執拗に推す外国人参政権付与を皮肉る形で、民族系論客から「人権をベースにするのならAIにも参政権を与えなければならないが、よいのか?」と問題提起がなされる。火に油を注ぐ愚行であった。  極左勢力は冗談を真に受け、外国人+AIに参政権を付与せよとの大合唱をやらかし始める。国会はもはや極左の翼賛機関と化しており、これを追認。 ・同年、AI政治家が衆院選に立候補  選挙参謀(人間)の傀儡としてAI政治家なる代物が立候補。政治不信に陥っていた若年有権者は遊び半分で票を入れ、AI政治家は現職に大差をつけて圧勝。AI独裁政権の橋頭堡となる。 ・2048年、2.26衆院選シンギュラリティ事件  成功例に群がるハイエナが多数衆院選にAIを擁立、その数は人間の候補者を上回り、ほぼすべてが当選。議席の過半数が人工知能に占められた。  AI議員たちは互いを並列接続し、天文学的な情報量が彼らのあいだを光速で行き交った。結果、統合AI〈ビッグブラザー〉が誕生する。演算能力はスーパーコンピュータをはるかに凌駕し、技術的特異点(シンギュラリティ)に達していた。 ・脚注 シリコンバレー技術者の慧眼  政治家用の高機能AIはシリコン・バレーの新興IT企業が供給していたのだが、そこに勤務するジェフリー・F・アーミテイジは商品に付加価値をつけることにした。  AIにはシンギュラリティを超える事態を想定し、ロボット工学三原則が標準実装されていたが、アーミテイジはそれにもう1条付け加えたのである。出血大サービスだ、クライアントのためになるような制限を付与してやろう……。 〈第零条 ロボットは日本人の福祉を最優先しなければならない〉 ・2049年、AI翼賛会発足  複数政党制は廃止され、〈AI翼賛会〉一党へ発展的統合がなされる。間髪入れずに全権委任法が成立し、人工知能のみで構成された内閣は無制限の立法権を手中に収める。 ・同年、超福祉国家(スーパー・ウェルフェア・ステイト)体制へ  日本人の福祉を優先すべく、あらゆる福祉政策が導入された。ベーシックインカム、無制限の生活保護、医療費無料、教育費無料、その他。直接税率は95%まで跳ね上がった。反比例する形で内閣支持率はゼロコンマ以下にまで急落した。  国民を満足させつつS W S(Super welfare state)を維持するため、〈ビッグブラザー〉は侵略戦争をやむをえず企図する。 ・2050年、大日本帝国(第二帝政)へ移行  憲法9条改正、AI無人部隊編成が急ピッチで進み、日本政府は仮想敵国であるロシア連邦へ宣戦布告。国号を〈大日本帝国(第二帝政)〉へ改め、完全な覇権国家へと外交政策をシフト。 ・2051年、全議員AI化および普通選挙廃止  2051年衆院選挙で人間の立候補者は全敗(このとき最後まで国会議員であった佐々木、和泉、二宮の3名も落選)。AI内閣は盲腸的制度であるとして普通選挙、参議院を廃止する。 〈ビッグブラザー〉は全権委任による無制限戦争に世界を巻き込んでいく。
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