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そうしている間に、七月の海の日の連休が始まった。
裕也とのお出かけは、三連休の真ん中の予定。
天気予報を見ると、晴れて暑い日になりそうだった。
「明日は糸島に行ってくるね」
前の日の晩に、祖母にそう話すと、祖母はにこにこして「男ん人と出かけると?」と聞いてくる。
祖母は普段、あまりしつこく聞いてきたりはしないけれど、未桜に「いい人」がいないのかと、気にしているみたいなのよね。
「そ、そうなの。小学校のときの幼馴染で」
「あれま。よかね。帰りに、お茶でも飲んでいってもらいんしゃい」
「もう、おばあちゃんは、すぐにそう言う」
「遠慮せんでよかばい」
車で迎えに来てもらうことになっていたから、祖母に見つかったら、本当にお茶をしてもらうことになりそうで、未桜はひやひやした。
まだそんな関係じゃないもの……。
それに、裕也と「そんな関係」になりたいかどうかも、未桜は自分でわかっていなかった。
辰巳先生のことを、「ややこしい人なら、やめときなよ」と言った遥の言葉が思い出される。
でも……先生のことが好きという気持ちを手放すのは、簡単ではない気がしていた。
「とにかく、流されちゃダメよ」
未桜は自分にそう言い聞かせた。
***
糸島は、玄界灘に面した半島で、自然が豊かで地元のお野菜やお肉もおいしいので有名だ。
「わあ、海がきれい!」
山の間を抜けて、ゆるやかなカーブを描く道を走っていると、ふいに景色が開けて、真っ青な海が広がった。
日の光を反射して海面がキラキラしていて、日本海らしい深いブルーが目にまぶしかった。
開け放しの窓から風が吹き込んで、未桜の髪をなでていく。
隣の運転席でハンドルを握る裕也は、ニコニコして未桜のほうを見ている。
「私、この辺りをドライブするのは初めてかも」
未桜が髪を手で押さえながら裕也の方を振り返ると、裕也は嬉しそうな顔をした。
「寄りたい場所があったら、言ってな」
「ありがとう」
明確な目的地が決まっているわけでもない、気ままなドライブだった。
海の中に鳥居が立っていて、ご神体の夫婦岩を祀った場所に立ち寄って。
それから、海の見えるお洒落なカフェでランチを食べた。
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