2.新しい職場

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 結局、その日はだいぶ遅くまで残業して、なんとか言いつけられた仕事を終え、帰宅した。  もうクタクタで、それに部長に説教されたのが響いて、心が重かった。  コンビニで買ったご飯をもそもそ食べながら、スマホをいじっていて、ふと昼間に転送しておいたメールを思い出した。  辰巳先生から送られてきた、教授秘書の公募に関すること。  そのメールを開いて中身を確認する。  勤務日は週に三~五日と選べて、お給料も思ったよりよさそう。秘書未経験でも応募可能、とのこと。  未桜はふいに「応募してみようかな」と思った。 「これも何かのご縁、よね」  今の仕事を続けていたら、遅かれ早かれ、心を病んでしまいそうな気がする。  それに、幸か不幸か、半年ほど前に付き合っていた彼氏と別れたところで、未桜を大阪に引き留めるものは何もなかった。  いつか福岡に戻りたいと思っていたじゃない。  今がそのときなのだ、という気がした。  その後の未桜の行動は早かった。  辰巳先生に、応募する旨の返事をして、履歴書を送付し、次の週には面接の運びとなった。  面接は最近のご時世らしくオンラインで、辰巳先生と、同じ研究室の助教だという男性と画面越しに話した。英語を話せるか聞かれたときは焦ったが、「必須ではないので大丈夫です」とその場で言われて、ほっと安心。  そして、面接から二週間。  秘書の経験はなかったから、結局採用されないのではないかという不安と、勢いで応募してしまった自分の大胆さへの戸惑いがあって、落ち着かない二週間を過ごしていたけれど。  内定の連絡を受けたとき、未桜は泣きそうになった。  この環境から解放されるんだ! という安堵が大きくて、思った以上にストレスを抱えていたことに、今さらながら気づかされた。  ちょうど、前の秘書さんとの入れ替わりで、三月中旬から来てほしいと言われて、あと一ヶ月しかなかったけれど、「はい、承知しました」と即答した。  すぐに会社には退職する旨を伝える。仲のいい経理の人や、直属の上司には、転職を考えていることは伝えていたし、未桜が畑野部長に目をつけられて、辛い思いをしていることは皆が知っていたから、むしろ「よかったね」と言ってもらえた。  住む場所を探す余裕はなかったが、福岡でひとり暮らしをしている祖母が「うちに住みなさい」と言ってくれたので、お言葉に甘えることにして、未桜はバタバタと福岡への引っ越し作業を進めた。  そして、三月。  春めいてきた車窓の景色を眺めながら、新幹線で大阪から福岡へ。  懐かしい博多駅に降り立ったとき、未桜は晴れやかな気持ちとワクワク感でいっぱいだった。  これから、人生が大きく変わっていくという予感があった。
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