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玄関ロビーで待っていたのは、「教授」という肩書から想像したよりも、ずっと若くてスマートな男性だった。
髪は無造作な短髪で、背には黒いシンプルなリュック。スーツではなく、グレーのジャケットをさらりと羽織った服装だ。切れ長の目が涼しげで、淡々とした印象。
「こんにちは、辰巳先生ですか?」
未桜がおそるおそる声をかけると、辰巳先生は「ええ」とうなずいた。
「いつもメールのやり取りさせていただいています、卯月です」
未桜がお辞儀して名乗ると、先生は「ああ」と眉根を開いた。
「色々とご手配いただいて、ありがとうございます。P大学の辰巳です」
ただの事務である未桜にも、丁寧に名刺を渡してくれる辰巳先生。逆に未桜は名刺を持っていないから、なんだか恐れ多い。
もらった名刺には、大学のロゴに、「教授」と「博士(工学)」という肩書。
それに「辰巳 駿一」というフルネームを見て、未桜は「あれ?」と気づいたことがあった。
「先生のお名前には、干支がみっつ、あるんですね」
思わずそう言うと、辰巳先生は眉をくいっとあげた。
「あぁ、確かにそうですね。『辰』と『巳』で、名前にも『馬』がありますから……そういえば、卯月さんも、干支がふたつ入っていますよね」
「ふたつ?」
卯月の「卯」は「うさぎ」だけれど、ふたつはどういうことだろう? 未桜が首を傾げると、辰巳先生が説明した。
「『未』は『ひつじ』ですよね」
「あっ、そうですね! 自分でも気づいていませんでした……でも、どうして名前を?」
「メールの署名で見ました」
辰巳先生は淡々と答える。確かに、メールの最後にはフルネームの署名を入れていたけれど、それを覚えているなんて、さすが教授だなと思った。記憶力がすごい。
そこで未桜は、自分の役割を思い出してはっとした。
「あっ、すみません。どうでもいい話をしてしまって。弊社のフロアは五階になりますので、ご案内しますね」
未桜はあわてて、エレベーターのほうへ辰巳先生を誘導した。
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