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「辰巳先生はおいくつですか? 教授としては、かなりお若い方ですよね」
畑野部長が、辰巳先生を持ち上げるように聞く。
「三十六です」
答えを聞いて、みなが驚きの声をあげた。
未桜もびっくりして、あらためて辰巳先生の顔を見やる。「教授」というから、若くても四十代だろうと思っていたのに……未桜の八歳違い。それで、大学の最高位職についているなんて。
「それでP大の教授とは、さすがですな」
畑野部長がみなの思いを代表してそう褒めそやした。
「たまたま、運がよかっただけですよ」
辰巳先生は、あくまでも淡々とそう言う。
「以前は、アメリカの大学にいはったんですよね?」
「ええ。大学院から、カリフォルニアにいました」
「失礼ながら、ご結婚は?」
部長がずけずけと、プライベートなことまで聞いている。
「それが、独身でして」
「おや、そうでしたか。さしずめ、研究に没頭しすぎて女性が目に入らない、というところですかね」
畑野部長は自分の発言がおもしろかったのか、笑い声を立てた。
「僕がモテないだけですよ。おっしゃる通り、研究ばかりしてきて、気が利かないもので」
辰巳先生は笑って畑野部長に合わせている。
「若くして教授ですし、狙っている女性は多いんじゃないですかね」
「いやいや、そうだとありがたいんですが」
畑野部長がしつこくその話題に食い下がるので、未桜と主任はハラハラして見守った。部長は飲むとからみ癖があるのが、困ったもの。まあ、飲んでなくても粘着質なんだけど。
その後も、ときどき部長から際どい発言が飛び出たが、辰巳先生は大人な対応でうまく受け流していた。
若いのに「教授」の貫禄があって、未桜はただただ「すごい人なんだなあ」と感心するばかり。本当に、「最強の理系男子」という感じ。うちの部長にも見習ってほしい。
飲み会はそれなりに盛り上がり、つつがなく終わった。
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