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日帰り旅行を提案すると、裕也からはすぐに返事がきた。
『そうだな、俺の配慮が足りなかったな。もちろん、日帰りでも構わないよ』
その言葉を見て、申し訳なさが出てきたけれど、「ごめんね」と返しそうになって、それは止めた。
やっぱり自分は、人に嫌われるのが怖くて、顔色を伺って、すぐに謝ってたんだなと、少しずつ自覚が出てきた。
言いたいことは言わんと、という遥の言葉を思い出す。
「そうよね。言いたいことは言おう」
まだまだ練習は必要そうだけれど。
しばらくメッセージのやり取をして、裕也とのお出かけは、糸島をドライブするということで決まった。
七月だったら海も山もきれいだろうな、と想像して、やっと少し楽しみになってきた。
***
七月に入ると、一気に夏らしい陽射しの日が増えてきた。
雨が降った次の日など、蒸し蒸しとした湿気もあいまって、ちょっと歩くだけで汗ばんでくる。
「でも、大阪に比べたら、マシよね」
海が近くて、風が通るからだろうか。
大阪のような空気のこもる暑さはなくて、まだ過ごしやすい気がした。
秘書室で辰巳先生と雑談しているときに、未桜がその話をすると、関西出身の辰巳先生も大きくうなずいて同意した。
「大阪は、熱がこもりやすい地形ですからね。京都や奈良は、盆地なのでもっと酷い」
「私、福岡の方が南で暑いイメージだったので、意外でした」
子どもの頃は福岡で過ごしたとはいえ、大阪暮らしが長かったので、改めて住んでいると、初めて気づくことも多かった。
「福岡は、日本海側ですから。鹿児島辺りはまた違うかと」
「なるほど!」
最近、辰巳先生とふたりになっても、こうして普通に会話をするのだが――辰巳先生からの「提案」はずっと保留になっていた。
未桜はまだ返事をしていなかったし、辰巳先生も何も聞かなかった。
初めの頃こそ、意識して緊張したが、だんだんと、あれは夢だったのではないかと思えてきた。
「ううん。そんなのダメよね」
きちんと決めて、お返事をしないと。
だけど、未桜はまだ自分がどうしたいのか、わかっていなかった。
それでも、真剣に仕事をしている横顔にドキドキしたり、たまに交わす軽い雑談が心地よかったりして、やっぱり先生のことが好きなのかも、と思うのだった。
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