1.出会いと秘密

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 そして、1時間後。 「せ、先生……大丈夫ですか?」 「ん~」  辰巳先生は本当に酔いつぶれる寸前までいき、バーを出た頃には、足元もおぼつかなくなっていた。  未桜は先生をホテルまで送っていきながら、本気で心配になってしまった。  それもこれも、私のため……申し訳ない気持ちで一杯だった。 「辰巳先生、本当にすみません」 「ああ……気にしないでください」  ホテルの下に着くと、「カギどうしたっけ……何階だったかな」と心もとなくコートのポケットを探るも、見つからないらしい。  埒が明かないので、辰巳先生にコートを脱いでもらって、未桜が代わりにカギを見つけ出した。 「部屋まで帰れますか?」 「いや……危なそうかな……。悪いんだけど、送ってもらっていいかな?」 「ええ!?」  辰巳先生は、自分の発言をちゃんと分かっているのかどうかも怪しい。放っておくと、そのまま座り込んで寝てしまいそうな気がした。  仕方なく、未桜はカギの部屋番号を確認し、フラフラする辰巳先生を支えてエレベーターに乗り込み、目的のボタンを押す。  別の仕事もあって大阪には昨日来たとのことで、チェックインの必要はなかったのが、まだ幸いというか……。  部屋に着くと、未桜が代わりに部屋のカギを開けて、辰巳先生をベッドまで連れていき、リュックを受け取って横になってもらった。 「すみませんねぇ……」  辰巳先生はそうつぶやいて、あっという間に寝入ってしまった。  その寝顔は、偉い教授だとは思えない無防備なもので、ちょっとドキリとしてしまう。  未桜はあわてて目をそらすと、腕にかけていた先生のコートをハンガーにかけ、リュックを椅子の上に置いた。  それらの作業を終えて、未桜は辰巳先生を振り返って声をかけようとした。 「私、帰りま……」  途中で、言葉が立ち消える。  何度か目を瞬かせ、それでも目の前の光景が変わらないので、未桜は手の甲でまぶたをこすった。 「辰巳先生……?」    ビジネスホテルの狭いベッドには、ひとりの少年が眠っていた。  少年のまとう服は、間違いなく先ほどまで辰巳先生が着ていたもので、ただサイズが大きすぎるため、袖もズボンの裾も余って、くしゃりと垂れている。  体格からして、小学五、六年生くらいだろうか。でも、そのまつげの長い目元には、辰巳先生の面影がある。 「え……どういうこと??」  状況を理解できなくて、未桜はおたおたした。    そのとき、彼がすっと目を覚まして、上半身を起こした。寝ぼけているようで、とろんとした表情で目の焦点があっていない。 「のどかわいた……」  少年がつぶやいた。やはり子供らしさのある高い声。 「お、お水飲む?」  未桜がデスクの上にあったペットボトルの水の蓋を開けて渡すと、少年はぼんやりとした顔のまま、長い袖に隠れた手でペットボトルを受け取り、水をぐいっと飲んで、未桜の方に戻した。 「おやすみ……」  そのまま、ぱたんとベッドに横になると、すうすうと寝息を立てはじめる。  未桜はただただ戸惑うばかり。  何が起こっているのか、まったくわからなかった。 「幻覚……じゃないよね。しゃべって、水を飲んでたし……」  きっと、自分も飲みすぎたのだ。  未桜は混乱したまま、逃げるようにホテルの部屋を後にした。
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