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1.出会いと秘密
男の人は何歳になっても、少年の心を忘れないという。
でもそれって、男の人の言い訳だよね?
未桜はそう思っていた。
いい歳の大人がいつまでも子どもっぽいのは、困りもの。
特に彼は、世の人が尊敬する経歴と肩書をもった人だったから。
ちゃんとした大人だと思っていた。
――それだけに一層、彼の秘密を知ってしまったとき、自分の目が信じられなかった。
***
「おい、卯月。教授が来るのは十五時だったよな?」
未桜がデスクに向かって仕事をしていると、畑野部長が声をかけてきた。未桜はびくっとして振り返る。
「はい、そうです」
「悠長に座っているが、準備はできているんだよな?」
部長はいつものように、嫌味まじりで聞いてくる。未桜は目を合わせずにうなずいた。
「は、はい、すみません。会議室は言われた通り、資料と機材を用意しておきました」
「時間になったら、ロビーまでお迎えに行けよ」
「はい」
部長が去っていったので、未桜はほっとして息を吐いた。
うちの会社の技術部では、次の春から新しく大型プロジェクトに参画することになっていた。
今日は、一緒に研究開発をする大学教授と、打ち合わせの予定がある。それで、未桜は朝から会議室の準備をしていた。必要な資料をそろえて、お茶を淹れる用意もした。会議室にはさっき暖房をいれて、暖めてある。
その先生は業界ではすごく有名な教授だし、大きな予算のプロジェクトだったから、技術部長である畑野部長は普段以上に神経質になっていた。それで、何かと状況を聞いてくるのだ。未桜としては、とばっちりをくらわないように、普段以上に気を遣うから、うんざりしてしまう。
ちなみに、今日までの間に必要だった契約事務や、日程調整などの対応は、全部、未桜がやっていた。口では重要な案件だというわりに、畑野部長はそういう対応をすぐに、事務の未桜に投げてくる。
うちは、従業員が数十名の中小企業で、人手がないのは未桜もよくわかっていたけれど、それでも、人使いが荒いのは困りもの。
会議室を再チェックして戻ったところで代表電話が鳴って、未桜の代わりに、経理の女性が電話をとった。短い会話の後、彼女は未桜の方を見た。
「卯月さん、お客様が一階ロビーに来られているみたいよ」
「あ、もしかして辰巳教授!?」
アポの時間は午後三時だけれど、ちょっと早めに着いたみたいだ。
「畑野部長に、先生が来られたって伝えといてください」
そうお願いして、未桜は大急ぎで、訪問者である大学教授を出迎えに行った。
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