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第1話_相棒との出会い
四月某日。
満開の桜が緩やかな春の風に舞う中、都心にありながら広大な区画に構えられた、歴史深い旧帝大学キャンパスがあった。
コンクリート造の重厚なその正門へ、真新しいスーツに身を包んだ大勢の若者が吸い込まれていき、薄色の若葉を生い茂らせた銀杏並木に沿って、無意識に列を成していく。
常時とは一線を画す、賑やかでありつつ丁度良い緊張感をかもし出すような空気に包まれる中、大学のシンボルとも言える大講堂では、年一度の晴れの舞台を迎えようとしていた。
「――圧巻だな」
周囲を歩く同年代たちと同じく、おろしたての濃紺のスーツにストライプのネクタイを締めた男がひとり、正門をくぐると脇で立ち止まり、自分を追い抜いてぞろぞろと前を行く数多の黒い頭を見、ため息をついた。
画一的で、まるでクローンが大量発生したような光景を眺めて眉を顰めるものの、外野からすれば自分もこれらの1ピースに過ぎないのだとすぐ我に返り、再び歩きだす。
「…まぁ、"三年前"よりはいくらかましかな」
手元の式典案内へ目を落としつつ、男――川崎 諒は呟いた。
ここ都内某所に鎮座する国立大学ではこの日、新一年生の入学式が執り行われる運びになっていた。
諒も、最難関と謳われる同大受験を突破した前途有望な若者のひとりとして、間もなく参列する予定だ。
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