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生まれも育ちも東京都で、幼少から出来が良かった諒は、塾へ通いつつ公立学校で勉学を重ね、高校も高名な都立校へ通い、なんの迷いも無くこの都内の旧帝大への進学を選んだ。
能動的に行きたかった訳ではなく"特に他に志望が無いから"という理由ではあったが、両親始め親族みな揃って彼を激励し、合格の報せには諸手を挙げて祝ってくれた。
物理数学が得意だったからという理由だけで理学部進学を決め、その先の進路に宛てが無いばかりかモチベーションもさほど無いという状況で、高校三年間を男一色の空間で過ごした末にようやく共学に返り咲けたという点くらいしか、これから待ち受ける四年間のキャンパスライフに期待出来るものは無かった。
というのが健全たる男子の本音なのだが、女子大へ進学していった交際相手にはとても明かせないな、と内で笑った。
式典を傍聴する両親と正門前で分かれ、諒は同窓生たちの行列に紛れつつ、大講堂へ入る。
講堂内一面に整然と椅子が並べられ、学部別・学籍番号順に座るよう掲示されており、案内に従って奥へ進んだ先にあった景色を見、諒は軽く落胆した。
おおよそ予測できたことではあったが、自分の座る区画には、広い肩幅を持つ短髪の後頭部しか見えなかった。
「…まぁ、そうだよね…」
再び口元だけで小さく呟くと、己もその群れのひとりと自認しつつ、指定された席へ腰を落とした。
隣の区画の教育学部はもちろん、斜め前の工学部にもちらほらと首の細い華奢な背格好の姿が見えたが、諒の選んだ理学部にはひとりとして女子学生はいない。
もちろん彼女一筋ではあるのだが、目の保養としてやはり存在だけはあって欲しかったと、眉を寄せながら目を閉じる。
…野郎だけの学生生活は、向こう四年継続か…
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