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「――落ちたよ」
肩を叩きながら声を掛けると、前の男は丸まった背中から諒の方へ顔を向ける。
少し頬を染め、放心したような面持ちの彼にバッグを持たせると、諒はふと口を開く。
「入学初日からなんだか大変だな。修復不可能か?」
「…」
言葉を投げられても呆けたままの男を見、幾分かの興味本位から話しかけてしまった諒は、はたと気付いて表情を変えた。
「ああ…ごめん。聞こえちゃったから、つい」
そう取り繕ってみせ、会話を終わらせようとしたが、男は首から上だけ振り返っていた姿勢から横向きに座り直した。
「……修復したいっ…、このまま終わっちまうなんて、俺は納得出来ない!」
「おぉ」
「お前、彼女いるか?」
「! …うん、一応」
「じゃあ相談に乗ってくれ。お前、理学部なんだろ? 同学部のよしみで!」
「いいけど…」
「確かに俺にも非はあると思ってる。卒業してからほぼ毎日シフト入れてたし…でも、全部あいつのためだったんだ! あいつのために、必死こいて働いてたんだ…!」
「そうか、そうだろうな。…あ、あのさ」
「でもあいつ、全然わかってくれなくて…っ、SNS送られて5分も気付かなきゃ鬼電だし、1週間会わないだけで、浮気してるだろってめっちゃ怒鳴ってくるしっ…俺は怒られまいと毎日毎日欠かさずご機嫌伺いして返事返して、甲斐がいしくデート代稼いでるだけなのにっ…!」
「うん、そうだな。後でちゃんと聞いてやるから、一旦落ち着こう? もうすぐ式始まる」
「あいつに捨てられたら、もうこの先彼女出来るチャンスなんて、俺にはほとんど残されてない…どうせこの学部は野郎ばっかりなんだろ?」
「あ…うん。ばかりどころか、多分100%男しかいない」
「っうぅ…!!」
クールダウンさせようとしたのにうっかりトリガーを引いてしまい、男は新品のスーツの袖で目を覆い、咽び声をあげ始めた。
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