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諒はその震える肩に手を置き、優しくさすってやった。
「理学部にいなくたって、他で探せばいいじゃない。キャンパスには何千人と通ってるんだから。サークルに入れば他校との交流だってあるし…いくらでも出会いはあるよ」
「っでも…俺、今まで彼女作るのにマジで苦労してて…毎回頼み込んで付き合って貰ってるから…自信なんかっ…」
「大丈夫だって…なんとなくだけど、君からは素直さとか誠実さが伝わってくるよ。そういう長所に気付いてくれる子に、きっと出会えるから」
そう当たり障り無い内容の声掛けしていると、項垂れていた男は顔を上げ、涙で潤ませた目を諒へ見張った。
「……お前…良い奴だな。まだ顔合わせて数分しか経ってないのに」
「俺が良い奴かどうかは置いておくとして、それは本当にそう。…ごめんな、初対面なのに余計なお節介焼いて」
「…いや、そんなことねぇよ!」
肩から手を外し、距離を置こうとした諒の手を、男は掴み返した。
「お節介だろうがなんだろうが、俺の気はだいぶ楽になった。ありがとな。…ええっと」
「あ、川崎 諒。これから宜しく」
「俺は沖本 啓介。 こっちこそ宜しくな、川崎! 学籍番号前後同士、仲良くやろうぜ」
「ああ」
手が触れた流れで軽く握手を交わし、気を持ち直して笑顔を見せる啓介へ、諒もつられて笑みを返した。
それから式が始まるまでの間、諒と横座りしたままの啓介はそのまま話し続けた。
先ほどまでの涙と落胆はどこへ行ったのか、啓介はうって変わって明るいトーンで会話の舵を切り、諒は聞き役に徹する。
本来の姿なのだろう、コミカルで少しやんちゃな気のある彼の表情や仕草に、諒は空虚でまっさらな胸中に少しずつ色彩が広がっていくような心地になった。
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