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サークル代表の是枝 岬から"佐伯"と呼ばれていた彼は、目立つアッシュグレーの髪色や垢抜けた面差し、装飾の多い服装が岬よりある意味記憶に鮮明で、毛色の違う他学部生の突然の来訪に反応できない理学部生たちを前に、緩いトーンで続ける。
「あれ、ここ理学部1年の講義やってたよね? いない?」
「! はい。ここに」
沈黙する面々を見回し始める男の仕草を見、蒼矢は慌てて立ち上がる。
「ああ、そこにいたんだ。やっぱ眼鏡かけてると、ぱっと見気付かないなぁ。まさに"木を隠すなら森の中"状態だね」
改めて室内を眺め、眼鏡男子が多い様にそう明け透けな感想を口にすると、後ろにいた他学部生たちがくすくすと笑い始める。
「…何の用すか?」
「突然なんだけど、また君に取材させて欲しくてさ」
彼らの空気感を打ち消すようなトーンで啓介が尋ねると、佐伯は彼へ一瞬視線を向けてからすぐに蒼矢へ戻し、にやっと笑みを浮かべながら用件を話し始める。
「この前発行した新聞がかなり好反応だったんだ。紙媒体の購入部数も専用WEBページへのアクセス数も、月平均からずば抜けてて。もちろん君の記事のお陰だよ、君が載ってるページのPVだけ跳ね上がってたからね」
「はぁ…」
「ここ数か月は美味いネタも無いし、内容もマンネリ化しちゃってて、購読数が右肩下がりだったんだよね。そこへきて、小一時間の取材記事載せただけでV字回復しちゃったわけだから、これはもう第二弾をやるしかないじゃない?」
身振り手振りを交えながら嬉々としてトークする佐伯の表情を受けても、蒼矢の反応は芳しくなく、後ろで聞いていた同級生たちも、彼の発言の中に見え隠れする軽薄さに眉をひそめる。
「いや、もはや連載を組むべきだよ。君が持つ注目指数なら、伸びた購読数を維持出来ると思う。むしろ、今まで興味無かった未購読者層もどんどん取り込めるポテンシャルすら持ってるよ」
「…いえ、僕は…」
「大丈夫、手間は取らせないつもりだ。月一度、一時間ほど付き合って貰うだけでいい。話して欲しいことも、学食で何が旨かったとか授業で何やってるとか、その程度で充分だから」
「あの、話を…」
「つまり、記事で君が発言する、ひいては顔が載ることが重要なんだ。内容なんて二の次でいい。顔写真だけでも女子にはきっと飛ぶように売れてくだろうからさ」
会話についていけない蒼矢を置き、佐伯はしたり顔でまくしたて続ける。
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