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「沖本…!」
危険を察知した諒は咄嗟に歩み寄るが、足の踏ん張りが効かなくなった啓介は体勢を崩し、床に横倒しになった。
ひゃあっという悲鳴が上がる中、転がされた啓介は憤激し、すぐに起き上がってサークル集団へ猛然と向かっていく。
「っの野郎…!!」
が、佐伯へ掴みかかろうとしたところで突如視界が遮られ、身体が押し戻される。
ぶつかってよろめき、不意な出来事に一瞬記憶が飛んだ啓介の視界には既に佐伯らは見えておらず、代わりに華奢な背中が映り込んでいた。
「…!?」
押し返されてきた啓介を受け止めた諒もまた、目の前で起きた一部始終をなんとか捉えられていて、その予想外過ぎる挙動に目を白黒させる。
…は? 何が起きたの…?
目前に立ち塞がっていた蒼矢は、尻もちをついていた啓介が起き上がって突進しかけたところを瞬間で割り入って背中で受け止め、勢いを完全に殺して押し留めたようだった。
諒は、跳ね返ってきた啓介の身体の重みを確かに感じ、自分より体重が上回っているだろう彼の身体を制した蒼矢の身のこなしに、瞬きを忘れていた。
…なんだったの? 今の髙城の動き…、えぇっ…!?
後方の面々が唖然とする中、迎え撃とうと身構えかけていたサークルメンバーへ、蒼矢は啓介に代わって正面から対峙する。
「…申し訳ありませんが、取材の話はお受け出来ません」
まっすぐ視線を向けながら、蒼矢はそう短く返答した。
やはり一部始終をぽかんと見届けていた佐伯は、一時遅れて慌てた風に言葉を発する。
「…! まぁ落ち着いてよ。次の発行日は来月だし、すぐに返事は求めてないんだ。少し考えて貰ってからでも全然――」
「話し合いの出来ない人たちと交渉するつもりはありません」
この期に及んでもなお蒼矢を説得しようとした佐伯だったが、にべもなくそう返され、口をつぐむ。
怯む佐伯たちへ、蒼矢は静かな面差しでいながら、射抜くような視線を与えていた。
「あなた方からの取材は、今後一切お断りします。…お引き取り下さい」
そう言うと、蒼矢はサークルメンバーらに対し頭を下げた。
「…」
佐伯は、頭を下げたままの蒼矢をしばらく真顔で眺めていたが、やがて小さく舌打ちした。
「所詮は陰キャか、つまんな。…行こうぜ」
そう言い捨てると、取り巻きを引き連れてその場を去っていった。
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