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部外者が消え、講義室には沈黙が降りる。
蒼矢は、開け放たれたままのドアへ歩み寄って閉めると室内へ向き直り、再び頭を下げた。
「…みんなごめん。迷惑をかけてしまって」
またしても深々と垂れる頭に、同級生たちは慌てた風に立ち上がってとりなし始める。
「頭上げろよ、髙城っ…お前が謝ることじゃないだろ…!」
「そうだよ! お前こそ被害者じゃないか。俺たちが迷惑かけられてるとしても、髙城からじゃなくあいつらからだからっ」
「今の奴が言ってたことなら、何も刺さっちゃいないよ。だって地味なのも陰キャなのも、本当のことだもん」
「学部ごと注目されるなんて、こっちから願い下げだしな。こちとら望んで人目を忍んで生きてるんだから」
同級生たちの自虐を交えたフォローを聞き、すまなそうな表情を浮かべながらも目元を緩ませると、蒼矢は啓介へ歩み寄っていく。
「急に前を塞いで悪かった、沖本。怪我は?」
「…! あ、いや、大丈夫」
まだ少し呆けた様子だった啓介は、声を掛けた蒼矢へ目を見張りながら応える。
次いで少し顔を赤らめ、身を縮めながら頭を下げた。
「…助かったよ。お前が止めてくれなかったら、やり返しちまってるところだった。…ついかっとなって」
そう恐縮する啓介へ、諒はため息をついてみせる。
「本当だよ。あのままとっ組み合いにでもなってたら、今頃収拾ついてないぞ。あと煽り過ぎ。気持ちわかるけどさ」
「…だって、学部のことまで馬鹿にされちゃ、黙ってられなくて…」
諒にたしなめられ、しょぼくれながらも愚痴る啓介に、蒼矢も鋭い面差しを向ける。
「確かに、さっきのは言い過ぎだったな。沖本の弁を借りるなら、彼らの中身が三流だという根拠も無い」
「う…」
「…でも、君の言葉を聞いてなんだか俺もすっきりした。つまり、俺も頭の中で同じようなことを思ってたのかもしれない」
「…!」
啓介が顔をあげた時には、蒼矢は表情を緩め、静かに微笑んでいた。
「言えなかった俺の代わりに、君が言ってくれた。…ありがとう」
「…髙城…」
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