第12話_静かな正義

6/7
前へ
/76ページ
次へ
部外者が消え、講義室には沈黙が降りる。 蒼矢(ソウヤ)は、開け放たれたままのドアへ歩み寄って閉めると室内へ向き直り、再び頭を下げた。 「…みんなごめん。迷惑をかけてしまって」 またしても深々と垂れる頭に、同級生たちは慌てた風に立ち上がってとりなし始める。 「頭上げろよ、髙城(タカシロ)っ…お前が謝ることじゃないだろ…!」 「そうだよ! お前こそ被害者じゃないか。俺たちが迷惑かけられてるとしても、髙城からじゃなくあいつらからだからっ」 「今の奴が言ってたことなら、何も刺さっちゃいないよ。だって地味なのも陰キャなのも、本当のことだもん」 「学部ごと注目されるなんて、こっちから願い下げだしな。こちとら望んで人目を忍んで生きてるんだから」 同級生たちの自虐を交えたフォローを聞き、すまなそうな表情を浮かべながらも目元を緩ませると、蒼矢は啓介(ケイスケ)へ歩み寄っていく。 「急に前を塞いで悪かった、沖本(オキモト)。怪我は?」 「…! あ、いや、大丈夫」 まだ少し呆けた様子だった啓介は、声を掛けた蒼矢へ目を見張りながら応える。 次いで少し顔を赤らめ、身を縮めながら頭を下げた。 「…助かったよ。お前が止めてくれなかったら、やり返しちまってるところだった。…ついかっとなって」 そう恐縮する啓介へ、(リョウ)はため息をついてみせる。 「本当だよ。あのままとっ組み合いにでもなってたら、今頃収拾ついてないぞ。あと煽り過ぎ。気持ちわかるけどさ」 「…だって、学部のことまで馬鹿にされちゃ、黙ってられなくて…」 諒にたしなめられ、しょぼくれながらも愚痴る啓介に、蒼矢も鋭い面差しを向ける。 「確かに、さっきのは言い過ぎだったな。沖本の弁を借りるなら、彼らの中身が三流だという根拠も無い」 「う…」 「…でも、君の言葉を聞いてなんだか俺もすっきりした。つまり、俺も頭の中で同じようなことを思ってたのかもしれない」 「…!」 啓介が顔をあげた時には、蒼矢は表情を緩め、静かに微笑んでいた。 「言えなかった俺の代わりに、君が言ってくれた。…ありがとう」 「…髙城…」
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加