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中華屋から移動した3人は、やがていつぞやか蒼矢を送り届けた駅のホームへ再び降りる。
そして、幼馴染の彼――烈が出迎えた所とは別の改札口を出、夜道を数分ほど歩き、住宅街に構えられた小さな神社へ辿り着く。
意外な場所へ連れて来られた諒と啓介は、目を丸くしながら、古めかしい灰色の鳥居と夜空にこんもりと黒々しい木々を見上げた。
「…神社なの?」
「ああ。ここの宮司さんなんだ」
「宮司で、武道の先生なの? そういう兼業スタイルもあるんだね」
「体を鍛えるのが好きで、趣味で武道教室開いたんだって」
「へー、おもろ」
各々感心の声をあげるふたりを境内へ誘い、蒼矢は参道を逸れて脇に構えられた住居の呼び鈴を鳴らす。
するとすぐに玄関の引き戸が開き、中から諒たちより少し年高の青年が顔を出した。
「――いらっしゃい、待ってたよ」
「こんばんは。遅くにすみません…」
「いいからいいから、あがって」
申し訳無さそうに頭を下げる蒼矢を呼び込み、青年は後ろにいた諒と啓介へも手招きする。
上がる前に蒼矢は振り返り、ふたりへ青年を紹介する。
「こちら、楠瀬 葉月さん」
「こんばんは、川崎です」
「ちわっす、沖本です。お世話になりまっす」
「楠瀬です。話は蒼矢から少し聞いてるよ。怪我したのはどちらかな?」
「あ、俺です」
啓介がそう答えると、青年――葉月は穏やかな笑みを浮かべながら啓介の背中に手を当て、奥へと連れていく。
蒼矢は彼らとは別の方へ消えていき、残された諒は少し戸惑いながらも啓介を追う。
後ろからついていきながら、諒は葉月の後ろ姿に興味津々な視線を注いでいた。
…和服だ…! 珍しいな…
萌黄色の長着を纏い、肩より少し伸びた直毛の髪を白紐で縛って背中に揺らしている姿は、和の雰囲気漂う家の内装も相まって、1世紀程タイムスリップしたかのような感覚を抱かされた。
諒はまた、想像していた人物像より遥かに若い葉月のビジュアルにも驚かされていて、いまだ半信半疑の心持ちでいた。
…この人が神社の宮司で、武道の師範…で合ってるの?
…息子さん…はたまたお孫さんとかじゃないの?
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