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食べ終わった食器と氷のうを片付けに蒼矢が部屋を出ていくと、葉月は啓介にテーピングを施しながら、ふたりへ尋ねる。
「さっきはあの子にはぐらかされた気がしたんだけど、実際のところ大丈夫なのかな? 大学生活は」
「!」
問われたふたりは顔を見合わせ、啓介に促された諒が口を開いた。
「…髙城は本当に誤魔化したわけじゃないんです。解決はしてると思います。…一応」
そう断ってから、諒は葉月へごく簡単に、端的に事のあらましを伝えた。
状況を把握した葉月は、少し眉を寄せながら腕を袂にしまった。
「…成程。関係は切れたけど、最後にちょっとひと騒動があったんだね」
「はい。…このまま何も無ければいいと思ってるんですが」
「そうだね。君たち側にはほぼ非は無いわけだから、余程のことが無い限りはこれきりになると願いたいね」
得心して感想を述べつつも、葉月は憂うような面差しを浮かべる。
「入学早々、騒がしくなったもんだね。…やっぱり、穏やかな日常はなかなか送れないね、彼は」
「…というと?」
「蒼矢は人よりちょっと受難体質というか、本人が望んでなくてもなにかとトラブルに巻き込まれやすくて…」
「ああ…なんとなくわかります。周りが勝手に騒いじゃう感じですね」
「武道習ってるのも、そういう理由があるんすかね?」
「うん、そうだね。僕の道場では古武術を基にした護身術を主に教えてて、彼も最初はそれが目的で入門してくれたんだけど、筋が良いから実戦に近い格闘術も個別に教えたりもしてるよ。…もちろん、本当に何かあった時のために、だけどね」
「もう長いんすか?」
「通ってくれ始めてからもうすぐ3年になるね。自分の教え子が少しずつ上達していくのももちろんだけど、単純に背格好が成長していくのを見守るのも感慨深いよ。勝手に親になったような気分になって、密かに嬉しく思ってるんだ。…本人には内緒だよ」
「良い関係っすね!」
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