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第15話_事の顛末
翌日、午前の講義を終えて中央食堂で昼食をとっていた理学部生の集団に、クリニックを経由してきた啓介が合流する。
「よーっす。腹減ったー、今日のランチ何?」
「沖本! 無事か?」
気付いて振り向く同級生たちに手を振り、沖本は右肩をがしがしと叩いてみせた。
「無事も無事よ。痛みはあるけど腕が上がらないってことは無いし、昨日より好調」
同じように少し案じるような面持ちで見やってくる蒼矢と諒に、にやっと笑いかけた。
「整形外科医に、打ったすぐ後の応急処置が適切だったから、そんなに後引かずに治りそうだって言われた。楠瀬先生のお蔭だぜ、マジありがとな、髙城!」
「ううん、こちらこそ。…良かったよ」
「おう。先生にも宜しく言っといてくれ」
下された診断に少し表情を晴らすものの、やはり控え目な笑みを浮かべて応える蒼矢の肩を軽く叩いてから、啓介はカウンターへ昼食をオーダーしに歩いていく。
「――昨日から何か進展あったか?」
ランチプレートを手に啓介が席へ着いて問うと、蒼矢が口を開いた。
「ああ。今朝1コマ目が始まる前に是枝さんに会って、少し話が出来たんだ。…どうやら彼女も把握してなかったみたいで」
「!? まじかよ。適当な組織だな」
啓介の聞いたそのタイミングが周囲も初聞きだったようで、蒼矢が話し始めると、その場にいた理学部一年生たちは自然と彼の座る机に集まった。
「じゃあ昨日の強引な取材依頼は、佐伯独自のだったってことかな」
「それにしたって、最初の記事のクオリティも酷いもんだけどな。モラルのかけらも無いし」
「ほんとだよ。サークルメンバーをまとめきれてないあの代表にも非があるんじゃない?」
啓介の文句を皮切りに、口々に文句を言い始める同級生たちに少し面食らいつつも、蒼矢は努めて落ち着いた口調で続けた。
「…とにかく、昨日までのことは聞き届けてくれたから。今日の内にサークルメンバーに連絡取って、事実関係確認してくれるって」
そう蒼矢が周囲を宥めたところで、背後から近寄るひと気を感じ、振り返る。
「! 是枝さん…」
渦中のサークル『T大ニュース』の代表・是枝 岬は、気配に気付いて声を掛けた蒼矢へ神妙な面持ちを向けていた。
そして、しなしなとその場に膝から崩れ落ち、三つ指揃えて頭を床に伏せた。
「――ごめんなさい、髙城君。本当に申し訳ありませんでした…!」
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