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「就職のこととか、彼にまつわる事情を私も把握してたから、記事を彼名義にすることを承諾したの。どうしてもやりたかった取材だけは、譲らなかったけどね」
そう、やや茶目っ気を出して蒼矢へウインクしてみせた岬は、すぐに面差しを改める。
「ただ、掲載の構成を彼に一任してしまって…他記事の編集に忙しさにかまけて、校閲をせずに通してしまった。上がった記事を見て、撮った覚えの無い写真が気になったんだけど…彼の『了解は得てる』って言葉を鵜呑みにしてしまったの…」
「…」
少しずつ表情を曇らせていく蒼矢に、岬は静かに続けた。
「そして、昨日の件ね。サークルとしては、髙城君の記事に関して次回は無いってスタンスだったんだけど、数字の伸びに目をつけた彼が、おそらく独断で打ち立てたものよ。企画が動いてたことも、あなたに取材依頼がいったことも、私は把握してなかった。…結局、取材は断ったって言ってたわよね?」
「はい」
「さっきサークル内共用で使ってる編集ソフトのバックアップを確認したら、あなたに関する第2回の記事が途中まで作られてたわ。…やっても無い取材の記事…全てでっち上げの空想物語ってことになるわね。きっと、校閲段階に入ったら『本人に個別で掲載許可を得た』とでも言ってたことと思うわ」
岬の口から語られる、秘密裏に動き続けていた内情に、蒼矢のみならず理学部生全員が一様に戦慄した。
…なんとなく、理学部自体を下に見てる空気もあったしな…
…放っておいたら、言われのない捏造記事に学部全体が翻弄されてたかもしれないぞ…!?
啓介への暴力行為はあったものの、佐伯本人は飄々とした空気感で、ただのゴシップ好きないち学生という雰囲気だと感じていたので、裏の顔とも言うべき暴走癖・他者を軽んじる自分本位な一面を垣間見、諒は事が大きくなる前にかろうじて防げて幸いだったと冷や汗をかいていた。
岬は椅子からカタリと立ち上がり、改めて頭を下げた。
「今回の全件…取材記事が酷い体裁になってしまったのも、強引な取材依頼がかけられてしまったのも、全てサークル代表としての私の監督不行き届きが招いたことです。改めて、申し訳ありませんでした」
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