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走り去る背中をそっと見送ると、周は隣に向かって不機嫌そうに呟いた。
「なんでアイツに話したんだよ。……せっかく忘れてたのに」
その言葉に、棗は今まで浮かべていた柔らかな笑みを消して言った。
「いつまでも忘れたふりが出来るほど世間は甘くないからね。それに、お守りの効果が切れたらまたいつ妖怪たちに狙われるかわからない。その時、彼女一人だったらどうする?」
「…………」
「いつも僕たちが傍に居るとは限らないんだ。何も知らないより少しでも知ってた方がいざという時対処しやすい。彼女ももう大きくなったしね」
「それは……そうだけど」
納得いかない周に、棗は諭すように話す。
「いいかい周。僕たちの術は記憶を完全に消せるわけじゃない。あくまで忘れさせるだけ。一時的なものだ。……あったことをなかったことになんて出来ないんだから」
「そんなこと、分かってる」
周は悔しそうに俯く。棗はさっきまでの笑顔を顔に戻すとパンと一つ手を叩いた。
「さぁさ。御祈祷の準備だ。周も着替えておいで」
周はぎゅっと強く拳を握ると、着替えるために部屋に向かって歩き出した。
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