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2.のっぺらぼうの探し物
天邪鬼から解放され、私は今嘘みたいに快適な生活を送っている。ああ、自分の意思で話せることがこんなにも気持ちいいだなんて! 素直になるって素晴らしい! 素敵! 今ならトリプルアクセル決められそう! スケートやったことないけど!!
そんな浮かれ気分でウキウキと廊下を歩いていると「もしかして君が宮下さん?」と白いマスクをした男の子に話かけられた。確か、隣のクラスの子だったような……。
「俺、隣のクラスの面無幸人。周くんのオトモダチ」
「……紫月くんの?」
そう言うと、面無くんはぱっちりとした目を細めて笑った。
「そうそう。で、君。宮下ゆかりちゃんでしょ?」
私が頷くと、面無くんは更に笑みを深くする。
「なるほど。確かにこの血は惹かれるなぁ。お守りしっかり持ってないと危ないよ?」
「……え?」
「オイ」
不機嫌そうな声が聞こえて振り向くと、眉間にシワを寄せた紫月くんが立っていた。手元のスマホを操作しながら、紫月くんは私を無視して面無くんに話しかける。ていうか学校にスマホ持ってくるの禁止じゃなかったっけ?
「コイツに何の用だよ、面無」
「こっわ! 別に何もしてないんだからそんなに怒んなくてもいいじゃ〜ん」
「いいか? 余計なことすればすぐに強制送還だからな。お前の行動はこの端末で監視されてるんだから」
「わかってるって〜」
二人はぽんぽんとリズム良く会話を続ける。ていうか強制送還って……え、もしかするともしかして……え?
「あ、あの。面無くんってもしかして……」
私の中途半端な質問に答えたのは、ため息をついた紫月くんだった。
「……コイツは許可を得て人間界に留学に来てる妖怪、のっぺらぼうだ」
「の、のっぺらぼう!?」
私は驚いて面無くんの顔を見る。マスクで下半分は隠れてるけど、目も眉も鼻もあるように見える。あれ? のっぺらぼうって顔のない妖怪じゃなかったっけ? 私の考えを読んだかのように今度は面無くんが説明してくれた。
「この顔はね、特殊なシールで出来てんの。貼ると立体的になって顔にめっちゃ馴染むんだぁ。しかも防水加工で雨でもプールもオッケー! すごくない? 最初はメイクだったんだけど、まばたきも出来ないし口も動かないから不自然で。その点このシールはちゃんと動くんだ。マジすごくない? あっ、どこで入手出来るかは秘密なんだけどね!」
いや、色々とすごすぎてちょっとついていけないんだけど。
「ちなみにこれが入国許可証」
そう言って面無くんが見せてくれたのは紫色に輝く三日月型のキーホルダーだった。
「掟を破ったらせっかくの許可を取り下げられて強制送還されちゃうからさ。人間に悪さしないから安心していいよ、ゆかりちゃん」
面無くんは目を細めてにっこりと笑う。う〜ん。これがシールだなんて信じられないほど本物っぽい。
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