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面無くんの失くした「顔のパーツシール」は、見た目は普通に売ってるシールと変わらないらしい。剥がして顔に貼ると、たちまち立体的になるそうだ。どういう仕組みなのかとか誰が作ったのかとかめっちゃ気になるけど、秘密って言われちゃったから聞けないや。残念。
「失くした場所に心当たりはないのか?」
「うーん……いつもはちゃんとファイルに入れてたからなぁ」
「そのファイルは?」
「あるよ。中身のシールだけなくなったんだ」
「……そうか」
そう言って紫月くんはスマホをぽちぽちといじる。ていうか、あのスマホって何なんだろう。いつも持ってる気がするけど……。私の視線に気付いた紫月くんが口を開いた。
「これは妖の持つ妖気を探知する特別なスマホだ。液晶には紫月様の水晶が使われている。境界線を超えて不法入国してきた妖怪がいると知らせてくれるんだ。それと、入国を許可してある妖怪の行動も監視出来るようになっている。だから、掟を破った妖がいたらすぐに駆けつけられるんだ」
なるほど。だからいつもチェックしてたのか。ただの依存症じゃなかったんだね。疑ってごめん。
「俺の相棒の管狐の住処にもなってるんだけどな」
そういえば、この前画面から飛び出してきてたっけ。え、どうやって中に入ってるの? ……妖って不思議。
「ちなみに、これは先生に使用の許可をもらってるから見つかっても大丈夫だ」
マジか。どうやって説得したのかわかんないけど、許可取ってるなら没収されたりしないだろう。
「ランドセルの中も机の中もロッカーも全部探したんだけど全然見つかんなくて。もう参っちゃってさぁ」
面無くんは眉尻を下げながら言った。うーん、すごく自然な動きだから、誰も彼が妖怪だなんて気付かないだろう。体も普通の人間って感じだし。
私たちは昇降口から六年生の教室の廊下を、目を皿のようにして探し歩いた。だけど、シールのような紙は見当たらない。
「よし、ヒットした」
スマホをいじっていた紫月くんがぽつりと言った。
「見つかった!?」
「いや、まだ。だけど、シールに残る面無の妖気を検索してみたら、三組の教室の方に反応があったんだ」
「三組?」
紫月くんと面無くんは二組のはずだけど……なんで三組の教室に? それは本人も不思議に思ってるみたいで、首を傾げていた。
「三組に行った覚えは?」
「ない」
「誰かに何か貸したとか?」
「何か? ……あっ! そういや昨日三組のやつに教科書貸したまま返ってきてない!」
面無くんはハッとして言った。
「たぶんソイツがシールを持ってる。とにかく行ってみるか」
私たちは三組に向かい、ドアの前に立つ。他のクラスに入るのはなんだか妙に緊張した。
「失礼します」
私の緊張をよそに、二人は堂々と中に入っていく。周りの視線が二人に集中した。
「おーい佐藤! 昨日貸した俺の教科書持ってない? たぶん国語なんだけど」
「国語? あっ!」
名前を呼ばれた佐藤くんは心当たりがあるらしく、慌てて机を探す。
「ごめん! 返すのすっかり忘れてた」
「いいっていいって。忘れた時はまた言ってよ」
「マジか! ありがとな」
無事に返ってきた教科書を持って教室を出た。人のいない廊下の奥まで行くと、教科書をパラパラとめくっていく。
「あった!!」
教科書の後ろのページあたりに、唇の形をした正方形のシール台紙が挟まっていた。面無くんはそれを取り出して嬉しそうに叫ぶ。
「たぶん、ファイルから落ちてたまたま教科書に挟まったんだろ。それが運悪く貸した教科書だったってわけだ」
「うわぁ、すげー偶然。でもよかったー! さすが周! 日本一の送還師!」
「……うるさい」
紫月くんは珍しく照れてるようだった。
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