4人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「俺、人間になりたくてこっちの世界に来たんだよね」
面無くんがぽつりと言った。
「でも、なれないってのはわかってるから。せめて人間の世界で、人間として生活したかったんだ」
「面無くん……」
面無くんはさみしげに笑う。
「ゆかりちゃんも探すの手伝ってくれてありがとう」
「わ、私は何もしてないよ! ただ着いて歩いてただけで……」
「いやいや。新しい友達が増えて俺嬉しいんだ。良かったらこれからも仲良くしてよ」
そう言って、面無くんは手を差し出してきた。その手を握ろうとすると、バッと引き裂くように別の手が割り込んでくる。……紫月くんだ。その顔は相変わらず不機嫌そう。
「オイ面無。あんまり調子に乗るなよ」
「うわー、男の嫉妬は醜いよ周くん」
面無くんが手を下ろすと、紫月くんはチッと舌打ちを鳴らした。私も行き場のなくなった手をそっと元に戻す。
「まぁいいや。今度は周くん抜きで話そうねゆかりちゃん!」
「オイ!」
「ははっ、冗談冗談!」
そう言って、面無くんはシールを持って自分の教室に戻って行った。
「……変なことに巻き込んで悪かったな」
面無くんがいなくなると、紫月くんはぼそりと言った。
「大丈夫。なんか不思議な体験だったけど面白かったし」
「そう言ってもらえて良かったよ。だけど気を付けろよ。基本的に妖怪は悪さをする生き物だから」
そう言って周くんはぐっと眉間にシワを寄せた。
「まぁ、そんな妖怪は俺がすぐに送還するけどな」
「……うん」
「宮下。明日、うちに来るの忘れんなよ」
「うん。ちゃんとお守り取りに行くから」
「よろしくな」
私と紫月くんは、そのままそれぞれの教室に戻って行った。
最初のコメントを投稿しよう!