3.天邪鬼再び

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3.天邪鬼再び

 今日は約束の日。  お守りが完成する日だ。今日の放課後は紫月神社に行って、棗さんからお守りを受け取る予定なのだ。ソワソワしながら給食を食べていると、春奈が「そういや聞いた?」と小声で切り出してきた。 「うちのクラスの山口。昨日三組の井上さんに告ってこっぴどくフラれたんだって」 「え、そうなんだ」  さすが情報通の春奈だなぁと感心していると、何故か驚いたような声が飛んで来る。 「いやいやもっと驚きなよ!! 山口と井上さんだよ!?」  そう言われても……あの二人って何かあったっけ? 「もしかして知らない?」 「何が?」 「えー……嘘でしょ。それマジで言ってんの?」  春奈は失礼なほど顔をしかめてドン引きしている。 「あんなの本人たちが知らないだけで周りから見たらお互い好きなのバレバレじゃん! みんな早く告れって何度思ったか!」 「えっ、そうだったの?」 「そうだよ! まさか本人たち以外で気付いてない人がいたなんて……そっちの方が驚きだわ」  鈍感で悪かったなと睨むが、春奈はその視線をまったく気にしていなかった。 「あの二人ってずーっとあんな感じで両片想い拗らせててじれったくてさぁ〜。やっと山口が告る決心したって聞いてみんな安心したわけ。それなのにフられたってもうビックリだよ!」  春奈は興奮気味に続ける。 「しかも井上さん、告白の返事なんて言ったと思う? 『あんたなんて好きでもなんでもないんだから。勝手に勘違いして告ってくるなんてバカじゃないの気持ち悪い』だって。さすがにひどくない?」 「それは……傷口に大量の塩を塗り込まれるレベルで傷付くね」 「でしょ? でも変だよね。井上さんってそんなこと言うタイプじゃないのに。断るにしてももっと優しく断りそう」 「うん、確かに」 「ていうか絶対山口のこと好きなのに! 断る意味がマジわからん!!」  井上さんといえば確かに物腰の柔らかい、現代では珍しい大和撫子代表のようなおっとりした女の子だ。山口くんの事を好きか嫌いかはさておき、そんな子が人を傷付けるような物言いをするのは確かに不自然である。 「あっ、告白って言えばさぁ、」  次のネタを話し出す春奈に相槌を打っていると、昼休みはあっという間に終わりを告げた。
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