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01
私は直子。
今日は皆さまに、10年ほど前に実際にあった出来事をお話します。
私たちの通う小学校の帰り道には、今は誰も住んでいない朽ちかけた洋館がありました。
私たちはそこにはなるべく近づかないように言われているの。だってその誰もいないはずの洋館には、雨の日に近づくとそこの幽霊に攫われちゃうっていう噂があるから……
でも、あの日のこと私たちは、その洋館に入ってしまったんです……そこで起こった出来事を絶対に忘れない……
だからあなたにもお話したいと思う。
あなたにも、覚えていてほしいから……
あれは10年前、私と親友の絵里、裕子と一緒に仲良く下校していました。
「あっ雨がふってきたよ?」
「大変だー!酸性雨がーハゲちゃうハゲちゃう!」
「ほんとだ逃っげろー!」
私の言葉に、お笑い担当の絵里がハゲを連発して笑っていた。ノリの良い裕子もゲラゲラ笑いながら走っていく。
そしてあの洋館の前までたどり着くと、絵里がぽそりとつぶやいた。
「あれ?あの家って門って空いてたっけ?」
「ん?」
絵里の言葉に、私もその洋館の周りをぐるりと取り囲む塀の正面の門を見る。確かに少しだけ空いているようだ。近づくとちょうど子供一人が横になって入れるほどの隙間が……
「怖いね……ここって、雨の日はダメなんでしょ?幽霊に食べられちゃうって……」
不安そうな裕子。
「でもそれってこの洋館が崩れちゃって危ないから、大人たちが広めた嘘だってお兄ちゃんが言ってたよ?」
私は兄から聞いた話を伝える。
「なーんだ。そんな事だろうと思った!じゃあさ、せっかくだからここで雨宿りしない?かくれんぼ?いや肝試しかな?時間つぶしに持ってこいじゃない?」
「えっやだよ怖いよ」
「そうだよやめようよ!」
絵里の言葉に裕子も私もやめようと引き留める。
「なあに?二人とも5年生にもなって幽霊が怖いの?じゃあ帰ればいいじゃない!私は一人でゆっくり雨宿りしてから帰るから」
絵里が不貞腐れながら門の隙間を通って中へ入っていった。
私は、裕子と顔を見合わせて追いかけようか帰ろうか悩んでいた。その間にも洋館へ近づいていく絵里。絵里は多分私たちを待ってるんだろうな……言い出した手前、引っ込みがつかなくなっちゃうのはいつものこと。
「い、いこう!絵里ひとりじゃ心配!」
勇気をだして私は裕子に告げると、裕子の方も力強く頷いてくれた。これが、この結末の始まりだった……
「ま、まって絵里!」
私たちは絵里に追いつき声を掛けた。
「よ、よかった……やっぱりちょっと怖かったんだよね……ありがとう」
「なんだ、絵里もこわかったんじゃん!じゃあやっぱり帰る?」
「いやよ!ここまで来たんだし!三人で探検しようよ」
絵里は、予想通り怖がっていた割には、今日は帰ることを選択しないようだった。
「お、おじゃましまーす」
「「しまーす」」
私たちが静かにその洋館の扉を開けると、ギギギと音を立てて開く扉。
中に入るとちょっと木の香りが強くてじめじめした湿気を感じていた。
「これ、ちょっと匂うね。でもまあ臭いってほどじゃないけど……」
「うんそうだね」
「私こういうの平気ー」
私の言葉に絵里も同意する。裕子はあまり気にならないようだ。この子は山に近いところに住んでるからね。草木の匂いは慣れっこなのだろう。
「よーし。ちょっと暗いけど窓から明かりが入っているから、まだなんとか見えるよね」
「そうだね。広い階段。二階はちょっと危ないかな?床が抜けたら大変」
薄暗くはあるがまだ見えないほどではない。それよりも正面に広い階段があり、二階はそこから左右に広がっておりいくつかの部屋の扉が見える。
でもさすがに何十年もほったらかしであろう洋館の二階に上がるなんて、さすがに危ないと子供の頭でも理解ができた。というか階段の一部が明らかに朽ちて穴が開いている箇所がある。
「じゃ、じゃあこっちから順に見ていく?」
「そう、だね」
「なんか私!た、楽しくなってきたなー!」
絵里が一階の左側の部屋を指さし、私の合意を得ると歩き出した。裕子はなぜか少し変なテンションになっている。多分怖いのを隠したいからかな?
そしてたどり着いたその扉。ゆっくりとドアノブを回し開けてみると、そこはどうやら何もない部屋であった。扉を開けっぱなしで中に入る。
だだっぴろい部屋の奥に椅子が一つだけ置いてあった。
部屋の右側には扉が付いていた。どうやらこの部屋からも隣の部屋に行き来できるようだ。こっちの扉はどうなってるんだろう?そう思って私はその扉に近づいた。
そして私が、その扉のドアノブに手をかけようとした時……後ろからバタンと大きな音がした。
二人の「ひっ」という悲鳴が聞こえた。
私も同じように悲鳴を上げる。心臓がバクバクと激しく騒ぎ出す。音の出どころを見ると、先ほど開けていたはずの扉が閉まっていた。
「扉、閉めた?」
「し、閉めてないよ!勝手に!バンってしまったんだよ!」
「うう、もう帰ろうよー」
二人が私のそばに寄ってきて扉を閉めたことを否定する。裕子はもう泣きそうだ。そして私は今、それどころではない……
二人の背後、そう……私の目の前には、さっきまで誰も座っていなかったはずの部屋の奥の椅子に、小さな女の子がちょこんと座っているのが見えたから……
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