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誹謗中傷除去システム『RSS』。通称『Remove Slander System』。
現在配信されているSNSの大部分に組み込まれたシステムだ。ユーザーの投稿した内容をAIが解析し、誹謗中傷と思われるものは投稿を内密にキャンセルすると言ったものだ。
元は秘密裏に組み込まれていたシステムだった。
しかし、誹謗中傷の書かれたメッセージが反映されていないことに気づいた一定数のユーザーがその旨を投稿したことで、大部分のユーザーに気づかれてしまった。おそらく身内で悪口を言った際に、自分の投稿が相手に伝わらなかったことで察することができたのだろう。
バラすユーザーも、それを拡散させるユーザーも、全員揃ってバカだ。彼らの行動原理は『世界に自分の存在を知ってもらう』ことだろう。認知されるのであれば、それが美名でも、悪名でも構わないのだろうな。
そういうわけで、RSSの存在は公になってしまった。だが、これは決して悪いだけではなかった。大部分に知られてしまったので、RSSの存在を運営を通じて公式に発表することとなった。同時に、今までこちら側で探していたRSSへの学習データをユーザーに提示してもらうことにしたのだ。
『誹謗中傷除去リクエスト』ボタンを組み込み、ユーザーが自分宛に送られてきた不快なメッセージに対して、それを押すことでRSSの学習データとして扱えるようにする。これによって、RSSの学習データ数は大幅に増大し、かなりの精度で誹謗中傷の投稿をキャンセルすることができるようになった。
だが、良いことだけではない。
悪意のあるユーザーがなんでもないメッセージを大量に『誹謗中傷除去リクエスト』することが出てきた。それにより、学習データに異物が入り込み、精度が落ちるという事態に陥ったこともあった。
そういうわけで、『誹謗中傷除去リクエスト』が来た投稿を読み、AIに取り込むかを決める部署が設立されることとなった。この部署はあまりやりたい人たちがいないため給料はわりかし多めにもらえる。仕方がない。勤務時間6時間、ずっと人の持つ負の感情に触れていなければいけないのだ。私のようなわりかしサイコパス気質な人間でも、病みそうになる時がある。
でも、私はこの仕事が意外と好きだ。なぜなら、どうにかして自分に注意を引かせようと奮闘する人の無様な姿を見ることができるからだ。先ほどのメッセージのように、誹謗中傷するユーザーはどうにかして自分のメッセージを相手に送りつけてやろうと思考を巡らして投稿内容を作成する。下等種族が頑張って上位種の注意を引こうとしている姿は滑稽であり、見ていて楽しい。
それに、一定以上の『誹謗中傷メッセージ』や『無闇な誹謗中傷除去リクエスト』をしたユーザーのアカウントをバンできるのも楽しい。その時、自分の中で大量のドーパミンが分泌されるのが分かる。正義中毒とはまさにこのことを言うのだろう。
「ふっーーーー」
煙草を吸い、煙を宙へと吹きかける。
一仕事した後の煙草ほどうまいものはない。この瞬間が一番心地いい。
「お疲れ様です。平塚さんもここに来たんですね」
「小休憩といえば、ここだろ」
寛いでいると見知った顔が喫煙所に入ってきた。茶色に染められた跳ねた髪、耳ピアス、高級時計を腕につけた姿から陽気さが溢れ出る。ただ、根はいいやつなので話していて悪い気はしなかった。
業平 恭介(なりひら きょうすけ)。私と同じ時期に入った同僚だ。ただ、年は私の方が上だ。彼は給料が高くて、楽そうな仕事だと思ってこの部署を選んだらしい。話している限りでは、私と同様に負の感情には耐性がありそうだった。
「調子はどうですか?」
「ぼちぼちだ。ストレス値も正常。まあ、一年もやっていれば流石に慣れるさ」
「同感です。それに最近は、メッセージの内容が面白いですからね。見ていて楽しい限りですよ」
「どんなメッセージが来る?」
「1文字ずつ投稿していってリプ欄を追うとメッセージが現れるとかありました」
「なんじゃ、そりゃ。私のところには縦文字メッセージがあったよ。みずきしねだって」
「そりゃ、ひでーですね。それにしても、人っていうのは馬鹿なのか頭がいいのか分からないですね」
「きっと頭はいいはずだよ。ただ、やることが馬鹿なだけさ」
「一番どうしようもないですね。さすがは108個もの煩悩を持っているだけはある」
「違いない」
私たちは束の間、互いに誹謗中傷を行う人たちの誹謗中傷をすることとなった。元から社会的な評価が低い者たちなのだから、彼らへの非難は誹謗中傷にはならないか。
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