鳴らないメトロノーム

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「どうしたの、変な顔して」 間もなくしてオフィスに2番乗りしたのは、AIプロジェクトチームの高槻結珠(たかつき ゆず)。 手には尚弥と同じカフェで買ったアイスティー。 ミルクもレモンも入れないストレートのアイスティーが高槻のお気に入りだ。 「いや、これ……」 口ごもりながら画面を見せる。 「え、ランクインしてるじゃん!しかも5位!すごいねぇ。これから高松のこと、先生って呼ぼうかな」 「バカ言うなよ。俺がそうなら君だってそうだろ」 「いやいや、「装像アイ」の管理者が先生よ」 「そうかも、しれないけど」 装像アイはこうしている間も休みなく書き続けている。 それを尚弥が推敲して、時系列を整えて読み込ませる。 そうしてまた書かせる。 その繰り返しは、ピアノの練習曲集、「ソルフェージュ」のように終わりがない。 違うのは、尚弥には何も残らないということ。 ソルフェージュは基本の練習で行われる。滑らかで正確な指使いの獲得、長い曲を悠々と弾きこなせる持久力もソルフェージュというたいくつな基本練習で培われる。 そもそも、ソルフェージュを「たいくつ」と思ってしまうのは子どもで、本気でピアノに向き合う者にとっては最重要な内容である。
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