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その後の私は、ただただふたりに会わないように過ごしていた。佐野さんからは「驚かせてごめん」とのメッセージをもらったけれど、返信出来ないままだ。
彼らと遭遇しないことは簡単だった。いつもふたりは注目されて、輝きを放っている。光を避けて歩けば良いだけの話だ。そして、私は光にはなれない。
それなのに、あの人はやってきた。
翌週。環境学の講義が終わって講義室を出た瞬間、私は目を見開いた。
壁際に早瀬さんが立っていて、私に強い視線を投げたからだ。
「清水さん」
名前を呼ばれて、私は彼女の前で動けなくなった。
「話があるのだけど、今時間大丈夫かしら?」
拒否する勇気なんてあるわけもなく、私は頷いて早瀬さんに従った。
彼女が私を連れていったのは、研究室棟だった。何故ここに? と思っていると、早瀬さんはドアプレートのない一室の前で足を止めた。バッグから銀色の鍵を取り出すと、鍵穴に差し込んでドアを開ける。
「どうぞ、入って」
どうして、この人が鍵を? 思いながらも彼女に続き、部屋の中に足を踏み入れた。無人の研究室の奥にはデスクとオフィスチェアが二組、壁際には本棚とコート掛け、姿見が置かれている。ポットなどの給湯設備もあるが、全体的に物が少なく、思い描いていた教授の部屋とは違っていた。
きょろきょろと辺りを見回す私に、早瀬さんが説明する。
「この部屋は、私と智哉で使わせてもらっているの。自習室だと、変に注目されて勉強に集中出来ないから、助かるわ」
「え……すごいですね。成績トップだからですか?」
そう聞くと、早瀬さんはフッと自嘲気味に笑う。
「違うわ。大学が私たちの両親から多額の寄付を得られるのなら、空き部屋を提供するくらい、わけないってだけよ」
デスクに腰掛けて、彼女はじっと私を見据えた。
「あなた、智哉から交際を申し込まれて、断ったんですってね」
胸にチクリと痛みが走った。
「……ごめんなさい。私、何て応えたらいいのか、分からなくて」
「智哉のことなら、気にしなくていいわ。失恋したくらいで、落ち込むような人間じゃないもの。まあ、どうして自分が清水さんをモノに出来なかったのか、疑問に思っているみたいだけど」
早瀬さんは「傲慢な男ね」と、呆れたように呟く。そして、再び私に鋭い視線を寄越した。
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