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対決
船長室の椅子に腰掛けたマイルズは、広げた日誌を前にして羽ペンを動かしていた。
「モンティが海図を見誤ることなく、天候に悩むこともなく、航海は順調。そろそろブブルアの領海に入る」
そう書き終えて日誌を閉じると、ソファに目を向けた。そこにはマサーナが眠っている。
ここ数日は王女を怖がらせるような事は起きていない。ブブルアの領海に入ればさらに安心は増す。あと少しの状況に気持ちが引き締まる……ことはなく、緩むのがマイルズである。
「ふぁぁ……オレも眠くなってきた。もう他にやることはないよな?」
日の出と共に当直を交代させ、食事も済ませてある。
問題ないと思った時、ふと机の一角を見て眉をひそめた。ラミウスに勧めた本がない。お気に入りの一冊なのだ、無くされたら困る。
「後でちゃんと返すようにウミヘビに言っておかなきゃ」
再び気が緩み、大きなあくびが出た。寝棚に横になろうとしたとき。
扉の向こうから声がした。マサーナが寝ていることを知っている船乗りは、遠慮がちな声量で伝えてきた。
「船長、来てください」
「ああ、ブブルアが見えたのか?」
「いえ、それが……別のものです」
「ん? もう何を見聞きしても驚かないぞ」
――その数分後、船首から海上を見たマイルズは目を皿にしていた。
何度も瞬いたが、目の錯覚ではなかった。
「あいつらめ……」
水平線上に艦船が横一列になって等間隔で浮いている。ここから先は絶対に通さないとの意思がはっきりと伝わる光景だ。多くの船がバレサンに強制されて追従している他国船であり、中央の船にはバレサンの旗が風になびいていた。
そして望遠鏡越しではあるが、うっすらと陸の形が艦船の向こうに見える。念願のブブルアだ。
「あいつら、見かけないと思ったらブブルアの領海の直前で待ち構えていたとはな」
眺め続けるマイルズの前に、バレサン艦から一艘のボートが向かって来ていた。
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