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ボートはエンドレス号の前で漕ぐのを止めた。船首からマイルズが顔を突き出すと、どこから変な笑い声が聞こえたような気がしたが、ボートの上の男は厳しい顔つきで笑ってはいない。メガホンを口に当て、まくしたててくる。
「素直にマサーナ王女を渡せば、お前らが犯した誘拐の罪は見逃してやる。だが、抵抗する場合は船ごと沈める。これは、ボス司令官からの伝言である」
マイルスは顔をしかめて鼻息を吹いた。
「誘拐だって! ボスの野郎め、でっち上げの話で他国の船も巻き込んだな」
海上のボートは返事を待っている。マイルズはこの窮地を抜け出す方法を必死に考えていた。
「船長……」
背後からか細い声が聞こえて、マイルズは振り返った。そこにはマサーナが不安な顔を張り付かせて立っていた。
「起きていたのか。いい知らせだぞ。ブブルアはもう目の前だ」
「今の伝言をわたしも聞きました。わたしがここにいる限り、みなさんに危害が及んでしまいます」
「あんなの気にするな。ここまで来たんだ。なんとかなるさ」
「そうっすよ。なにか方法がありますって」
船乗りの一人が励ますように声をかけた。甲板には当直以外の船乗りまで集まってきていた。
「お前らまでいたのか。ちょうどいい。誰か、ここを切り抜けるいい方法はないか?」
マイルズが腰に手を当てて見回す。誰もが顔を見合ったが、声は上がらない。
「船長、わたしが投降します。そうすれば、みなさんは助かります」
マサーナの肩に、マイルズは優しく手を置いた。
「そもそも、こうなることは最初から分かっていたんだ。最後まで悪あがきしようじゃないか」
「そうだよ」
「そうとも、任せてくれ」
「まだ諦めるのは早い」
船乗りたちからも賛同の声が上がる中、モンティが船尾からやって来た。
「何格好つけておるんじゃ。海賊とやりあった時のことをもう忘れたのか?」
「奮い立たせるくらい、いいじゃないか。あんたも加わるか? 気分上がるぞ」
「わしは結構。血圧には気をつけんとな。それより、ここに一人腹案のある奴がいるぞ」
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