30人が本棚に入れています
本棚に追加
船乗りたちが一斉に帆柱に登りだした時、顔を上向けたマイルズが空を睨んだ。
「おい、あれは何だ?」
青空に不釣り合いな、渦巻く大きな炎の塊。それが弾き出す火の粉が、矢のように勢いよくエンドレス号へ飛んでくる。
ラミウスが息を呑む。
「ガルディクスだ……!」
「いや、どう見ても炎だろ!」
マイルズが叫ぶのとほぼ同時に、火の雨が甲板に降ってくる。
「きゃあ!」
「うわぉっ」
悲鳴を上げながら頭を伏せるマサーナや船乗りたち。船上は帆布や木板の床など燃えやすいもので溢れている。
「そうはさせませんよ!」
ラミウスが頭の上で両腕を交差する。
その途端、目前の海水が盛り上がった。船を覆うように伸びてきた海水が船上にシャワーのように降り注ぐ。火の雨は撒き散らされた海水によって一つ残らず消えた。
「一体何が起きてるのか、全く分からんぞ」
頭から海水を浴びたマイルズが、説明を求めるようにラミウスを見る。
「あれはボスに味方している火竜のガルディクスです。自由に火を操れるために、無尽の火の玉を飛ばしてくるのです。マサーナが言っていた、強力な武器の正体が彼です」
「ひりゅう? あいつもあんたと同じ竜なのか?」
マイルズは再び上空を見やった。
炎の塊だったものは猛禽類のような大きな翼を広げ、太い胴体に短い四肢が露わになった。
真の姿を見せつけるように、ガルディクスは頭の先から細長い尻尾まで火をまとい、口を大きく開けて低い声を響かせてくる。
「大人しく従え、ラミウス」
「お断りします」
「断っていいのか? ローストした人間どもを見ることになるぞ」
「よくそんな事が言えますね。あなたの言っていた新しい生き方とは、目的のためになら何の罪もない命まで奪うことなのですか」
「相変わらずお前は頭が硬いな。人間なんて、しょっちゅう殺し合いをしているじゃないか。死骸がちょっと増えるくらい、何も問題ないだろう」
猛獣の咆哮のような低い声が、辺りにこだまする。
最初のコメントを投稿しよう!