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満足そうに頷き、ラミウスは舷側に寄った。その足を呼び止めるように声が上がる。
「待ってください! これでお別れなんて、あの、わたし……」
マサーナが駆け寄り、両手を胸元で組んでラミウスを見上げた。
伝えたいことがあるのに何と言ったらいいか分からない、そんな双眸を見つめながら、ラミウスは穏やかに答えた。
「何も言わなくても大丈夫ですよ」
「でも……そうだ、いつか王宮に招待します」
「海上でしか生きられませんから」
「それなら、海の上に宮殿を造ります」
「それは感謝の意を表しているのですよね」
「はい。あなたを大切に思っていると、そう伝えたくて」
「充分伝わりました。それと、言いそびれていたことを一つ」
不思議そうにするマサーナに、ラミウスは微笑んだ。
「あなたは良き人間です。忘れないでください」
はっとするマサーナの表情を見届けて、ひらりと縁を越えて海に飛び込む。
「ラミウス!」
マイルズが舷側から身を乗り出すと、海面からラミウスが飛び出してきた。舷側に両手を掛けて、「やめてくださいよ」と顔を突き出す。
「うわっ、な、何で?」
「別れ際だけ名前で呼ぶなんて縁起悪いでしょう? フラグを立てないでください」
「そ、そうか? ゴメン、ウミヘビ」
「分かればいいのです」
今度こそ、ラミウスは海中へと消えて行った。
海面に渦が出来たかと思うと、そこから白くて細長いものが天に向けて勢いよく飛び出した。
体を覆ううろこが日差しを受け、光って見える。手足はなく、頭部から尾の先まで均一な太さで、金色の目は爬虫類のよう。
竜の姿のラミウスは瞬く間に上昇し、空中に浮遊するガルディクスに絡みついた。
その衝撃で二体は落下するも、海面に近い位置で留まった。
水に浸かるのを避けようと、ガルディクスは盛んに翼を動かす。しかし、海中へ引きずり込もうとするラミウスも相手に負けないくらいの力で引っ張っている。上昇したのはほんのわずかの距離だった。
その様子を見ながら、マイルズがのん気に言う。
「どこが竜だって? あいつ、やっぱりヘビだよな」
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