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呆然としていた船乗りたちが我に返る。
「船長、船を進めなきゃ」
「おっと、そうだった。帆走はなしだ、全員スクリュー回しに向かってくれ。あれ、モンティは?」
辺りをきょろきょろと見回すと、船尾から声が聞こえた。
「マイルズ、わしはとっくに準備できておるぞ!」
操舵場で舵輪を握っているモンティに、マイルズが両手を広げて歩み寄る。
「ジイさん、あんたは無理すんな。オレがやるよ」
「ふん、こんな時だけ年寄り扱いするな。こう見えても昔は神舵手と呼ばれたんだ」
「……神舵手? 暗礁に乗り上げたくせによく言うよ。まあ、そんなにやりたいのなら任せるぞ」
マイルズは前柱の檣楼に立つ見張りに声を掛けた。問題がないことを告げると、スクリューが回りだし、エンドレス号に振動が響き渡る。
「よし、全速前進だ!」
意気揚々と声を張り上げると、すぐに見張りが言った。「船長、敵船が近付いてきます!」
艦船が左右から間合いを詰めてくる中、バレサンの旗を掲げた軍艦がどの船よりも速度を上げて向かってくる。ボスの「逃さないぞ」との声が、今にも聞こえてきそうな勢いだ。
「マズイぞ、あいつらが近付く前に陸へ行くんだ!」
マイルズが格子から船倉を覗くと「あいよ!」と返事があった。ハンドルを回す船乗りの横で、次の船乗りたちが待機している。短時間で交代し合うのは、回している間は全力を出すためだ。
――ドォン、ドォン!
軍艦が大砲を撃ってくる。
ほとんどは水柱を立てて海中に落ちるが、船間距離が縮むにつれてエンドレス号に被弾する回数が増えてくる。船腹や甲板にはいくつもの破孔が穿たれ、破壊された帆桁が派手な音を立てて甲板に落下した。
被弾する度に首を縮めるマイルズは鼻息を荒くする。
「こっちが抵抗できないのを知っていて、撃ってきやがる。あいつら、力の差を見せつけないと気が済まないのか」
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