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憤るマイルズの目の端にマサーナが映った。船縁で不安そうにうずくまっている。船内へ避難させようか。いや、待てよ。
敵船との距離を見て思う。このまま逃げ切れるほど陸は近くない。進み続ければどれかの船に進路を塞がれる。間近で撃たれ、大きく破損するエンドレス号の姿が脳裏に浮かび、ぶるっと頭を振った。
ちらりと海上の竜たちの格闘を見て、拳を握る。
ウミヘビと約束しただろ、船長?
再び船に向き直ると、重々しく操舵場へと足を踏み出す。船乗りたちは船倉にいるため、甲板で動けるのはモンティだけだ。顔のシワを深めて舵輪の前に立つ老航海士に声をかける。
「ちょっと来てくれ、ボートをおろす」
「何寝ぼけておる、舵を取る者がいなくなるだろうが」
「こっちが優先だ」
「ボートで逃げたって、捕まるぞ」
「それでも、このままじゃエンドレス号が沈むのは時間の問題だ」
「全く、年寄りをこき使いよって」
モンティが操舵を離れたのを見た後、マイルズはマサーナに歩み寄って告げた。
「もう、これしか陸へ向かう方法がない。一緒に来てくれるか?」
「ボートで行くのですか」
「もしかしたら、ちょっと泳ぐことになるかも」
「分かりました。わたし、泳ぎは得意です」
「そいつはありがたい」
ボートの前にやって来たモンティが咳払いをした。「いいかマイルズ、これだけは言っておく」
そのわざとらしい仕草にマイルズはため息をついた。
「あんたの説教を聞いている暇はないぞ」
「違うわい。ボート下ろしは重労働、後で腰の治療代はしっかり請求すると、言おうとしたんだ」
「そっちか? まあいいさ、会社に給料の前借りをしてでも払ってやるよ」
「その言葉、忘れんからな」
帆柱を支えにして、マイルズとモンティはマサーナを乗せたボートを海上へ下ろした。
そしてマイルズは海へ飛び込んだ。すぐにボートの縁に手を掛け、マサーナの手を借りて乗り込む。うまくいくことを祈りながら、オールを握った。
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