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大きな波がきて、マイルズはボートを漕ぐ手を一瞬止めた。「おっと!」
マサーナが空を見て叫ぶ。
「ラミウスさんが落ちたわ!」
波はそのせいかと思いながら、マイルズは前を向いたまま答える。
「あいつは海の中なら大丈夫だ」
ボートが水平に戻ると再び漕ぎ始めた。
モンティがエンドレス号を別の方向へ向けたため、多くの船がそっちへと流れていくが、ボートに気付いたバレサン艦が追いかけて来ている。しかも砲撃付きだ。近くに弾が落ちるたびにボートが大きく揺れ、身を屈める。
「おっと、今のは大きかったな。落ちないでくれよ、王女さま?」
マイルズが頭を上げると、さっきまで座っていたはずのマサーナがいない。
「マサーナ!」
「船長!」
マサーナが海面に顔だけ出して叫ぶ。手を伸ばせば届きそうな距離にいる。
「そこか! 今助けるぞ」
マイルズが船縁から手を伸ばすと、再び砲弾が近くに飛び込み、ボートが大きく傾いた。「うわっ」
ボートは転覆し、マイルズは海中に落ちた。「マサーナ?」
海面上にマサーナが見えず、海中に潜った。水中で漂っている人姿を見つけ、すぐに泳ぎ寄って脇に抱えて浮上する。
「しっかりしてくれ」
「はい……」
意識があったことに安心し、マイルズは彼女を抱えたままボートに泳ぎ戻ろうとしたが、その瞬間に飛んできた砲弾がボートを真二つに割った。
「あちゃあ……」
蒼白な顔でいるマサーナをこれ以上不安にさせないようにと、マイルズは明るく言う。
「仕方ない、ちょいと距離があるが、泳いでいくぞ」
「あの、さっきは心配させないようにと思って……わたし、実は泳ぎは得意ではないのです」
「うん? 心配いらないさ。オレは得意だ、任せてくれ」
マイルズは側に浮いていたオールを手繰り寄せ、マサーナにつかまらせた。片手でそのオールの先端を握り、もう片方で水を掻く。こんなところで諦めるものか、絶対に岸まで泳いでやる。意思だけは鋼のように強固だった。
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