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呆気にとられる二人を見下ろして、ウィンドルは言った。
「高速で行くから、それをしっかり握っててよ、いいかい?」
「それって何だ?」
マイルズの疑問に答えはなかった。ウィンドルが羽ばたき、オールが宙に浮く。
先端の平たい部分に腰を下ろしたマサーナは、両手で棒状の部分を握っていた。一方、マイルズは棒状の部分に両手と両足をかけてぶら下がり、「豚の丸焼き」状態だった。
「お、おい、これどうなってんだよ!」
「いっくよー?」
再びウィンドルが羽ばたくと、オールが弾丸のように真っ直ぐ前に飛ぶ。
マサーナは咄嗟に身を伏した。
「うっわあぁぁぁぁ!」
大口を開けたマイルズの悲鳴を辺りに響かせながら、ブブルアへまっしぐら!
二人を乗せたオールはあっと言う間に陸に迫った。
港に泊まる船々が見えたと思ったのも一瞬のこと、船と船の合間を横切って、岸壁に衝突する――かと思いきや、岸縁に置いてあった木箱の上に思い切り突っ込んだ。
「あたたた……」
崩れた木箱の上に仰向けになったマイルズは、どうにか身を起こした。濡れていたはずの衣服がほとんど乾いている。何が起こったんだっけ?
頭を軽く振ったら、風竜に吹っ飛ばされたことを思い出した。目の前でうつ伏せになっているマサーナに声を掛ける。
「大丈夫か? 怪我はないよな?」
「は、はい……」
上げた顔は、髪が葉っぱまみれになっていた。彼女の下敷きになった木箱は見事に潰れ、中身の茶葉が撒き散っていた。マイルズは思わず吹き出す。
「とにかく、着いたようだ」
手を差し出して、マサーナが立ち上がるのを助けた。二本の足が無事に地面に立ったのを見て、ようやく実感が湧いてくる。両手を横に広げて、高らかに言う。
「ついに来たぞ、念願のブブルアだ!」
「……はい!」
きらきらと輝く瞳は涙のせいか、それとも日差しが見せた技か。明るい顔でいたのはほんの僅かの間、マサーナは海上を見て悲しそうに言った。
「でも、まだ船のみなさんが……ラミウスさんの姿も見えません」
遠方の海上に、エンドレス号らしき船が多くの船に近接され、囲まれているのが見える。もう逃げ道はない。船乗りたちの身を案じて、マイルズも顔を曇らせた。
「助けたくても、ここからではどうにも出来ないぞ……」
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