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願いが叶うとき
海上に浮かぶエンドレス号は、帆柱が二本とも折れ、破損だらけの舷をさらしていた。その甲板でモンティと船乗りが上空を見て目を細める。
「わしの目がおかしくなったんか? この光は何だ」
「いえ、おれにも見えます。一体、何が起てるんですか?」
「わしにも分からん。分からんから、こうして見ておる」
「この世の終わりですかねぇ」
「まだ貸しが残っておるのに、惜しいのう」
何をするでもなく、航海士と船乗りたちはただ光を眺めているだけだった。
バレサン艦の艦首では、光を攻撃と勘違いした水兵たちが慌てふためいていた。
そんな彼らを見向きもせず、ボスは船縁に身を寄せた。両腕を広げて恍惚と光を凝視する。
「おお、四竜の力が開放される……! ついに来たのだ、この私の願いの叶う時が!」
部下たちが船内へ逃げても、ボスは上空に向かって高笑いを続けていた。
ブブルアの港では、人々がゆく足を止めて、または作業の手を止めて海上の光に目を留める。彼らは「あれは何だ?」と不思議がった。
マサーナの目も人々と同じように、光に吸い寄せられた。
「きっと、ラミウスさんたちです。何か特別なことをしているのです」
隣に並んだマイルズは呆気にとられ「あ、ああ」と気の抜けた返事しか出来ない。
「でも、なんだか不安です」マサーナは胸元でぎゅっと両手を握り、マイルズに尋ねた。
「良き人なら、こういう時どうするのでしょう?」
「う、ううん……オレには分からないが……」
「みなさんが無事でいてほしいのです。そのためには、何が出来るのでしょう?」
「オレみたいに漫然と生きてきた人間には、何も出来やしない。ただ、無事を祈ることくらいしか思いつかないよ」
困った末のなげやりな言葉に、マサーナははっとした顔になった。
「それだわ、祈りです。祈っていれば、天が聞き遂げてくださるかもしれません」
海上に向けて、マサーナは目を閉じて祈った。
「どうか、みなさん無事でいてください。そして、ちゃんと家に帰れますように」
「そうだな、何もしないよりかはいいよな……いや、祈りだって効果がないと決まったわけじゃない。オレも祈るぞ」
マイルズも胸の前で両手を握り、光に向けてぶつぶつと唱え始めた。
「無事に帰る、オレもみんなも、無事に帰れるとも!」
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