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「もし、そこのお方」
背後から聞こえた男の声で、マイルズは目を開いた。それまで光を見ていたことは瞬時に忘れ、まだブブルアの岸壁に立っていることだけ思い出した。
振り返ると、四頭立ての黒塗りの箱馬車が停まっていた。中から身なりの良い若者が降り立ち、笑顔を向けてくる。
「やはりあなたでしたか。お久しぶりです、マサーナ王女。お迎えに参りました」
差し出された手に、マサーナは歩み寄る。
「ああ、デイン殿下。お会いするのは何年ぶりでしょう。お出迎え感謝します」
「殿下?」マイルズが素っ頓狂な声を上げると、マサーナが振り返った。
「はい。こちらはブブルア国の王子、デイン殿下です」
「王子様か……!」
マイルズが呆然と見ている間に、二人の会話は進む。
「この度のご助力、心より感謝します」
「いえ。マサーナ王女の安全を思えば、これくらい当然のことです。この後王宮へお連れします。無事な姿を見れば、きっと王も安心なさることでしょう」
見つめ合う二人から親しげな雰囲気が伝わってくる。マサーナの服装がドレスであったなら、絵になるような場面だ。
「オレもあと二十歳若かったら、いい勝負だったのにな」
マイルズが頭をかきながらぼやくと、マサーナが顔を向けてきてデインに紹介をした。
「こちらは、わたしをここまで送り届けてくださったマイルズ船長です」
「ブブルア国を代表して、感謝の意を表します、船長」
デインが見つめてくると、マイルズは慌てて海へ手を向けた。
「いや、感謝よりオレの船と船乗りたちを助けてくれ」
先ほどまで一箇所に集まっていた船々は、もうバレサン艦への協力を止め、散り散りになっていた。エンドレス号は、他国船に曳航されて入港しようとしている。
「あ、あれ?」
甲板からモンティが嬉しそうに手を振っている。「おーい、こっちはみんな無事だぞ」との声が聞こえてきそうだ。
それより沖の海上では、ブブルアの軍艦がバレサン艦を囲んでいた。降伏したのか、砲撃は聞こえてこない。
デインが誇らしげに言う。
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