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それから数カ月後――。
程よい風に、昇る朝日。波間には何も浮かんでおらず、見慣れた海面が広がっている。
マイルズはエンドレス号の舷側に立ち、大きく息を吸った。破損だらけだった事が嘘のように舷や床が修復され、新しい帆柱は頼もしく帆を膨らませている。
「うん、今日も気持ちのいい夜明けだ」
号鐘を鳴らそうとすると、船首の方に何かが落ちたような音がした。不思議に思って足を運ぶと、甲板の上に一冊の本が落ちていた。手にとると、それは「ネリソン提督の航海記」だった。
「これ、探していたオレの本じゃないか。なんでこんなところにあるんだ?」
側で何かが動いたような気がして、船縁に目を向ける。すると、そこには白い衣服を来た人物が飛び込もうとしていた。
「おい、待てよ!」
ゆっくりと振り返るその顔を見てマイルズは反射的に叫ぶ。
「ウミヘビじゃないか!」
「……覚えているのですか、私のこと?」
「ああ、いや、覚えていない。だがあんたはウミヘビだ、そうだろ?」
ラミウスはじっとマイルズを見つめた。懐かしいものを見るような目線が注がれる。
「思い出さなくていいのです。あの日、願ったのですから。人類が竜の存在を忘れるようにと。だから、私のことも忘れてください」
「うん? 何言っているのか分からんが、まあ、本が戻って良かった」
「ええ。それでは――」
ラミウスが再び背を向けた時、マイルズは言った。
「続編の『ネリソン提督の最後』を読んだから、また最初から読み返したいと思っていたんだ。ちょうど良かった」
途端に動きを止めて、ラミウスは振り返った。
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