第十一話

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第十一話

「それで、どこが痛いんだ」 ミミを椅子に座らせて私は尋ねた。 さっそくブルーが足元にすり寄ってくる。 「わー! おおきなワンちゃん!」 ミミは歓声を上げるとブルーの毛並みに顔をうずめた。 アンとジュールが返ってくるのはいつも日が暮れてからだが、とてもこの空間に耐えられそうにない。 さっさと薬を用意して帰らせてしまいたい。 「どこが痛いんだと聞いているんだが」 「ん-っとね」 ミミは少し言いづらそうにもぞもぞとしていたが、私の顔を見上げると洋服の袖をめくった。 白く細い腕の内側には何かに打ち付けたような青あざができていた。 「打撲か…… どこかにぶつけたのか?」 そう言いながら触れようと手を伸ばした時だった。 「いやっ!」 突然ミミは叫ぶと私の手を払いのけた。ぴりとした痛みが手の甲を走る。 「あっ……」 ミミはすぐに我に返ると、おびえたような顔でこちらを見、そしてすぐにうつむいてしまった。 「……触られるのが嫌なのか」 ミミは答えない。まるで咲いていた花が萎んでしまったかのように椅子の上で小さくなっている。 「ただいま~! って、あら? ミミちゃん?」 玄関の方で重苦しい空気に似合わない明るい声がした。 そちらの方に視線を向けると、両手で大きな紙袋を抱えたアンが入ってきたところだった。 「来てくれてたのね!  ごめんなさい、今そっちに…… って、あら? あららら……」 アンは後ろ足で器用に玄関を閉めようとした途端、手に持った紙袋から小瓶やら果物やらが転がり落ち、今度はそれを拾おうとしてそのままひっくり返ってしまった。 「アン……」 私はため息をつくと、アンを助け起こしに玄関に向かった。 「ジュールはもう少し買い物をするっていうから、先に帰ってきたのよ」 アンは転んだ時に痛めた脚をさすりながらそう言った。 「でも嬉しいわ。ミミちゃんとエマがお友達になってくれたなんて!」 「友達ではない」 「ロベルト君がいなくなっちゃって寂しく思っていたけれど、よかったわあ」 即座に否定したが、アンは聞く耳をもたない。 ロベルトが王太子だってこと忘れてないか? ミミはアンが来たので安心したのか、少し落ち着いたようだった。 「さて、ミミちゃんはいつもの湿布ね? やんちゃもほどほどにするのよ」 アンはそういうと戸棚に向かい、いくつかの乾燥ハーブを小袋に包んだ。 「はい。使い方はいつもと一緒。お湯で濃く煮だしたらよく冷まして、布を浸して痛いところに当ててね」 「うん……」 ミミは頷くと小袋を受け取った。痛むのか、どこか動きがぎこちない。 「それにしても、先月もその前もだったわよね?  しかも同じくらいのときに。  元気なのはいいけれど、お母さんも心配するでしょう?」 「お母さん」という言葉を聞いたとき、ミミの身体がびくりと震えた。 一瞬、おびえたような表情が浮かぶ。 しかしすぐに立ちあがるとくるりと目を回して笑った。 「うん! きをつけるね!   えっと、あのね、お金なんだけど……」 「いつでもいいのよ。  大人になってお金持ちになったら、で」 「ありがとう!」 ミミはそう言うとぴょこんと頭を下げ、背中を向けた。 「送ってくる」 私はそう言い残すとミミのあとを追いかけた。 「あらあら仲良しねえ!」というアンの嬉しそうな声が背中の方で聞こえた。
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