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その四
早朝、御前に参りて啓すれば、「 さることも聞こえざりつるものを。昨夜のことにめでて行きたりけるなり
あはれ
かれをはしたなういひけむこそ、いとほしけれ 」とて、笑はせたまふ
姫君は、「 何の色にかつかうまつらすべき 」と申すを、また笑ふもことわりなり
「 姫君の御前のものは、例の様にては憎げにさぶらはむ
ちうせい折敷に、ちうせい高杯などこそ、よくはべらめ 」と申すを、
「 さてこそは、うはおそひ着たらむ童も、参りよからめ 」といふを、「 なほ、例の人のやうに、これなかくないひ笑ひそ。いと勤公なるものを 」と、いとほしがらせたまふもをかし
中間なる折に、「 大進、まづもの聞こえむ、とあり 」といふを聞こしめして、「 また、なでふこといひて、笑はれむとならむ 」と仰せらるるも、またをかし
「 行きて聞け 」とのたまはすれば、わざと出でたれば
「 一夜の門のこと、中納言に語りはべりしかば、いみじう感じ申されて、いかで、さむべからむ折に、心のどかに対面して、申しうけたまはらむとなむ申されつる 」とて、また異ごともなし
「 一夜のことやいはむ 」と、心ときめきしつれど、「 いま、しづかに御局にさぶらはむ 」とて往ぬれば、帰り参りたるに、「 さて、何事ぞ 」とのたまはすれば、申しつることを、「 さなむ 」と啓すれば、「 わざと消息し、呼び出づべきことにはあらぬや。おのづから端つ方、局などにゐたらむ時も、言へかし 」とて、笑へば、「 おのが心地に、賢しと思ふ人の褒めたる、うれしとや思ふと、告げ聞かするならむ 」とのたまはする御けしきも、いとめでたし
翌朝、中宮様の御前に参って報告すると
「 そんな生昌の遊び人みたいな噂、聞いたこともないけれど。もしかして、昨日のあなたの切り返しに感心したのじゃないかしら?それで部屋まで行ったのだと思うわ。それなのにあなたったら、またこてんぱんにしちゃうなんて。可哀想なこと 」
と仰って宮様がお笑いになる
内親王に仕える女官の着物を新調するようにって、宮様に命じられた際だって、生昌殿ったら
「 この、あこめ(女児の中着)の上から着るやつは、何色にしましょう? 」だなんて、あこめの上着じゃなくてそれは、かざみ(女児の上着)って名前があるんだから、かざみでいいのに、まあ、知らなかったんでしょうけど
女房たちが、また笑い物にするのよね〜
まあ、笑われるのもしょうがないっちゃしょうがないわw
さらにさらに生昌殿
「 姫君の御膳の食器は、大人用のいつもの食器では芳しくないでしょうから、ちんめえお盆に、ちんめえ高杯が宜しいかと 」
なんて言う始末で
「 それなら上から着るヤツを羽織った女官も、さぞやお仕えしやすいでしょうね〜 」
って返して差し上げたのよ おほほ〜😁
そうしたら、それを聞いてた宮様が
「 これこれ、あなたまで。普通の人と同じように生昌を笑ってはいけませんよ。あの人は愚直なほど生真面目なのだから 」
なんて、気の毒そうにおっしゃって、それがまた面白いわ
宮様の用事をしている時に、
「 大進がどうしても清少納言様に
申し上げたいことがあるとのことで 」
って、取次役の女房の声がしてね
宮様がこうおっしゃるのだけど
「 またあなたに揶揄われるだけなのにね 」
ブハッ‼️おかしいったら
「 まあ、行って用件を聞いてらっしゃい 」
そう宮様が仰せなんで、わざわざ用事を中断して行くと
「 あの一夜の門のお話ですが、あの話を兄の中納言にしたところ、しきりに感心致しておりまして、どうにかして然るべき機会でも設けて、清少納言様と対面して穏やかに話をしたいものだなどと申しまして 」
なんていう用件でね
ええ〜?他には?それだけなの?って、何だか気が抜けるわ
だって、あの時の深夜の夜這いめいた訪問のことでも言われるのかも?
とか思ってドキドキしちゃってたのよ
それが
「 今は静かに帰ります。またゆっくりとお部屋に伺わせてもらいます 」
とか言って行っちゃったんで、なんだか腑に落ちない気分で中宮様のところに戻ったの
「 どんな話だったの? 」
宮様に聞かれたから、これこれこういう用件でしたと申し上げたら
「 わざわざ使いをよこしてまで清少納言様を呼び出すような用件でもないのに、変な方ですわね。それなら御前にいない時とかお部屋にいる時にでも言えばいいのに 」
周りの女房たちは、こう言ってまた笑ったけど
「 生昌は、尊敬する兄上があなたのことを褒めたので、これはあなたが喜ぶと思って、伝えたかったのじゃないかしらね 」
そんな風に中宮様はおっしゃるのだけど、
ホント宮様って、気遣いがあってお優しいと思うわ
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