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第九段
今内裏の東をば、北の陣と言ふ
梨の木をはるかに高きを、「 いく尋あらむ 」など言ふ
権中将、「 もとよりうち切りて、定澄僧都の枝扇にせばや 」とのたまひしを、山階寺の別当になりて、慶び申す日、近衛司にてこの君の出で給へるに、高きけいしをさへ履きたれば、ゆゆしう高し
出でぬる後に、「 など、その枝扇をば持たせたまはぬ 」と言へば、
「 もの忘れせぬ 」と笑ひ給ふ
「 定澄僧都に袿なし。すくせ君にあこめなし 」と言ひけむ人こそ、をかしけれ
仮の内裏である一条大宮院の東を、北の陣といいますが
梨の木が非常に高いのを、「 どのくらい高いのかしら 」などと話していると
権中将様が「 根元から切って、僧都(僧侶の役職で僧正の下)定澄(名前)の扇の枝にしたいものだ 」とおっしゃいました
僧都の定澄が奈良の興福寺の長官に就任された、お祝いの日のことでございます
近衛府の役人に先導されまして、権中将様もお出かけでしたが、定澄は足の高い下駄を履いていて、とんでもなく背が高いのですが
その定澄が退出した後、私は権中将様に
「 どうしてあの扇の枝を、定澄に持たせなかったのです? 」
と言いましたら
「 キミ、よく覚えていたね 」とお笑いになります
「 定澄僧都は背が高いので、裾の長い袿(うちき)も長くはなく
すくせ君は背が低いので、丈の短いあこめ(女児の中着)も短くない 」
そう言われた方がいらしたことも、面白いことでした
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