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その6
御前に侍ひけむ人さへこそ、羨ましけれ
せめて申させ給へば、賢しうやがて末まではあらねども、すべてつゆ違ふ事なかりけり
いかでなほ、少しひがごと見つけてを止まむと、ねたきまでに思しめしけるに、十巻にもなりぬ
『 更に不用なりけり 』とて、御草子にきょう算さして、大殿籠りぬるも、まためでたしかし
いと久しうありて起きさせ給へるになほこの事、勝ち負けなくてやませ給はむ、いとわろし、とて、下の十巻を、明日にならば、異をぞ見給ひ合はする、とて、『 今日、定めてむ 』 と、大殿油まいりて、夜更くるまでなむ、よませ給ひける
されど、終に負け聞こえさせ給はずなりにけり
『 上渡らせ給ひてかかること 』
など、殿に申しに奉られたりければ、いみじう思し騒ぎて、みず経など、あまたせさせ給ひて、そなたに向ひてなむ、念じ暮らし給ひける
好き好きしう、あはれなることなり
など、語り出でさせ給ふを、
上も、聞こしめしめでさせ給ふ
「 我は、三巻四巻をだにえ見果てじ 」と仰せらる
「 昔は、えせ者なども皆をかしうこそありけれ。このころは、かやうなる事やは聞ゆる 」など、御前に侍ふ人々、上の女房こなた許されたるなど参りて、口々言ひ出でなどしたる程は、誠に、つゆ思ふ事なく、めでたく覚ゆる
「 御前にお控えしていたような女房たちのことまで羨ましいわね。帝が無理に女御に返事をおさせになると、利口ぶってすぐそのまま、下の句までお答えするのではなかったけれど、一つとして間違えることはなかったということでした
なので帝は、『 やはりどうにかして、一つでも誤りを見つけて終わりにしたいものだ 』と
女御のあまりにも立派なお答えぶりに、少々悔しくなってしまわれたのか、この試験をお続けになる内に、10巻にまでになってしまわれたの
帝はとうとう、『 全く、無駄骨だったわ 』と仰って、御草子にしおりを挟んで、お二人でお休みになっだのだけど、それも仲睦まじいと言えるわね
それから時がたって帝がご起床になられたのだけど、やはり
この勝負が、引き分けで終わりになったのはまことによろしくない
それに下の10巻を、明日になったら別の本まで参照にしたりなどするやもしれん
これは、今日中に勝負を決めてしまわねばと、それからは灯火を灯して、夜が更けるまでお読み続けになったのだそうで
されど女御は、最後まで負けず終いでいらっしゃいましてね
『 帝が女御のお部屋にいらっしゃいまして、こういう試験が始まりました 』と、父君の殿に申し上げる使いを遣わされたのを、父君様が大変ご心配なさって、あちこちの寺に祈祷の依頼をして読経などをお上げになって、
娘のいる宮中の方角に向かって、一晩中娘が失敗しないようにと、祈り続けたそうなの
風流とも言える勝負だけど、娘を心配する親心にも心打たれるわよね 」など
中宮様がお話なさるのを、一条天皇もお聞きになられて感心なさいます
「 私は三巻か四巻さえ、読み終えることも出来ないだろうよ 」と、帝は仰せになられ
女房たちは、「 昔は女房なども勿論のこと、身分の低い者たちもみな風流だったのですね 」
「 この折り、このような素晴らしい話なども耳にしませんし 」などと、
御前に侍っている中宮様付きの女房や、一条天皇付きの女房で、こちらの御前に出るのを許されている人やらが参って口々に称賛の言葉を述べている様子は、本当に気がかりなことなど露ほどもなく、素晴らしいと思われたのでございます
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