何度でも恋におちる

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  鳴海くんは優秀な頭脳を持っているのに、   なぜ誤解を招きそうな発言をするの? 誤解はすぐに解かねばと、ようやく私は口を開いた。 「中学生の同級生なんですっ。ちなみに部活も同じでしたから、知っている仲、なんですねっ」 みなの疑惑を払拭するために、頬を染めながら懸命になった。  なぜこんなに必死にって……視線が痛いのよ 皆が私の説明で納得している中、一人だけ刃物のような視線をおくる森環奈さんがいたから。 その後、病棟カンファが無事に終了した。私は議事録を完成させるため、部屋に残った。ぞろぞろスタッフが退出してゆく中、森さんは逆行して私に近づいてきた。見上げると森さんの大きい胸が陰になって見えた。 「鳴海先生と付き合ってはいないのよね?」  職場でいきなりそんな質問? 「はい」 「ふーん。昔は付き合ってたの?」 「いいえ。ただの同級生です」  しかも、ひそかに彼に失恋した同級生です… さすがにそこまでは口にはしなかった。森さんはそれを確認すると、表情明るくこう私に言ってきた。 「鳴海先生は私がもらうから。よろしくね」 そして大きな胸を揺らして部屋から出て行ってしまった。  そんなこと、私に言われても… 森さんの自信に私も呆然としてしまった。あそこまで強気にいけるなんて、逆にうらやましい。私は三年間も思いを秘めたけど、鳴海くんに好きな子がいるってわかった瞬間、簡単にあきらめてしまったから。 ♢ 議事録を入力し終わってパソコンをパタンと閉めた。ようやく終わったとほっと一息ついた。すると鳴海くんが入って来た。 「藤川お疲れさま。はい、どうぞ」 コールドの缶コーヒーをいただいた。 「…ありがとう」 鳴海くんが隣の席に座った。私はドキンと胸を鳴らしながらも、言うべきことを思いだした。 「鳴海先生。先ほどのあの言い方、誤解されるので気を付けてください」 私は軽い注意口調でそう言った。 「藤川が意識しすぎだよ。あのままの関係でしょう?」 そうやってケロっといいのけるんだもの。あなたの言動に意味を持たせてはいけないと必死になっている私の気持ちも考えてほしいものだ、という心の声は言えないけれど。 「藤川がこの病院に来てくれてよかった」 「どうして?」 「今回のことで、スタッフが手をこまねいていた三宮先生が変われそうな気がする。病棟にとってハッピーなことだからさ」 「そうだったんだ…」 確かに、三宮先生は一緒に働いていて気持ちのいい人ではない。忙しいときの『声をかけるなオーラ』は誰よりも強く濃く発している。そういう三宮先生にスタッフは困っていたんだ。 「改めて藤川のパワーってすごいなって感動するよ。ありがとうな、藤川」 そう言われて私は鳴海くんの顔をまともに見てしまった。カッコよくて、爽やかな最上級の笑顔。それをまとに食らってしまい、コーヒーを噴き出しそうになった。 「大丈夫?」 「平気っ」 ハンカチを取り出して口元を隠した。いいものを見てしまった嬉しさで口元が緩んだ、なんて絶対に言えない。  あまりにも素敵な笑顔を私にくれるから  私は本当に困ってしまう    勘違いしそうになるから思わせぶりなことしないで欲しい  あたなのこと、また大好きになってしまうから
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